web 集英社文庫 トップページへ戻る
新刊情報 担当者からのオススメ! 今月の特集 コラム 今月のPOP アンケート 恋する四字熟語
恋する四字熟語
恋する四字熟語

中級篇 落花流水(らっか・りゅうすい)
意味: 散った花が水の流れにまかせて流れたいと思えば、
それを受けた川の水もその花を乗せて流れたいと願う。
男が女を思う情を持てば、女にもまた男を思う情が生まれ、
互いの心が通じ合うこと。また、人や物が落ちぶれることのたとえ。流水落花。

 友人が会社で、後輩の女の子が先輩に厳しく注意されている場面に居合わせたそうだ。訓戒の内容は、「仕事相手と関係してはいけません」というもの。先輩の方とは面識があるが、「あなたがそれを言いますか!」とツッコミたくなる“その道の達人”のような女性だ。叱られた後輩も、色っぽいかわいい子だという。
 お説教が終わって、友人も一緒に雑談していると、その後輩が「後で口説いてくる人のメールは、最初からわかる」と言い出した。全然そんな色っぽいことが書いてあるわけでもない仕事のみの文面でも、一目でそれとわかるのだそうだ。友人が驚いていると、先輩も「そうそう」と同意し、ふたりは友人をかやの外にして「メールに色がついてるんだよね」と盛り上がった。友人は、果たして自分にはその色が見えないのか、あるいはその色がついたメールをもらったことがないだけなのかと自問したらしい。
「ねえ、真由美ちゃんもそのメールの色が見える? もしかしたら、見えないのはわたしだけなの?」
 見えるよ、え、見たことないの? と言って「色っぽいチーム」に入りたかったが、わたしもそんなメールは見たことがない。
「女の方もいいなと思ってるから、そんな気がするだけじゃないの? もしくは、無意識にでも自分がОKサインを出していて、それで相手が何かを匂わせるメールを送ってくるんじゃないの?」
 魚心あれば水心で、好きな相手のメールはなんだか自分を好きなように見えてしまうのではないか。
 友人も同じことを尋ねたところ、答えはノー。こちらは全くその気がない相手からのときもメールで予感がすると、後で「やっぱり」という事態になるという。メール自体は完全に仕事モードでよけいなことは一切書かれていない、それでもわかるのだそうだ。
 確かに、口説いているわけでもないのに色っぽいメールというのはもらったことがあるが、それはわたしに気があるとかではなく、男でも女でも物凄い色気を持ったフェロモンの化け物みたいな人は時々いて、そういう人たちのメールにはすべて色がついているのかもしれない。
 後で口説いてくる人を最初のメールで見抜く能力はわたしにはない。ただ、親密だった相手が離れていくとき、メールの頻度でも文面でもなく、ふと感じることがある。いつもと同じような内容なのに、届いたメールが、なんだか妙に白々と一瞬光るのを見たような気がするのだ。それも最近……。気のせいかなあ。でも、この「気のせい」というものが、恋にはとても重要である。

 2      次へ

Profile
佐藤真由美 Sato Mayumi
1973年新潟県生まれ。女性誌編集者として取材した、歌人・枡野浩一との出会いをきっかけに、短歌を作りはじめる。2002年、第一歌集『プライベート』上梓。歌集に『きっと恋のせい』(マーブルトロン)、その他、『恋する短歌 22 short love stories』『恋する歌音(カノン) こころに効く恋愛短歌50』など(以上すべて集英社文庫)。「小説すばる」にて発表している恋愛小説も好評で、さらなる注目を集めている。
ヨシタケシンスケ Yoshitake Shinsuke
1973年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。筑波大学大学院 芸術研究科総合造形コース修了。広告美術や依頼造形の仕事をするかたわら、独特の観察眼によって切り取った人間模様をスケッチして注目を集める。主な著書に『しかもフタが無い』(PARCO出版)、『やっぱり今日でした』(ソニー・マガジンズ)、『じゃあ君が好き』(主婦と生活社)など。
http://www.BIGART.gr.jp/members/yoshitake/
まえがき


初級篇 中級篇 上級篇 故事成語篇
このページのトップページへ