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対談
◆『平成大家族』文庫化記念対談◆ 中島京子×高野秀行
 2010年夏に『小さいおうち』で直木賞を受賞した中島京子さん。デビューから7年、古典を下敷きにした斬新な物語から、どこかユーモラスでいとおしい恋愛小説まで、幅広く執筆してきました。そんな著者の家族小説の傑作『平成大家族』が、このたび文庫化。以前から中島作品を愛読していた「辺境作家」の高野秀行さんが、「中島京子応援隊長」に名乗りをあげて、対談のはこびとなりました。
●中島作品の魅力──ノンフィクションを読むような醍醐味
高野 僕はずっと前から言っていますけれど、中島さんには国民的作家になってほしいと思っていて。このたび直木賞を取られて、「よし!」という感じです。
中島 ありがとうございます(笑)。そんなことを言ってくださるのは、高野さんとうちの姉だけです。姉はフランスに住んでいて日本の事情を何も知らないので「京ちゃんは有名になるわよ」って、親バカではなく姉バカで言っていて。
高野 僕も本当にそう思っていました。ですから今回の受賞は順当なところだな、と。かなり前の話になりますが、『本の雑誌』で僕の書評の連載が始まった時、最初に取り上げたのが中島さんの『イトウの恋』だったんです。もともとあの小説の下敷きとなっているイザベラ・バードの『日本奥地紀行』を読んだことがあって、イトウというガイドは、僕がよく知っている現地人ガイドたちに似ているなと思ったんです。
中島 高野さんはいろんな場所に冒険に行っているから、いろんなガイドに会っていますもんね。イトウに似ている人って多いんですか。
高野 そう。頭はいいんだけれどもこすっからくて、何を考えているか分からなくて、平気で嘘をついたりするというタイプ。なんでガイドにそういう奴がいるのか考えてみると、たいてい地元の共同体から浮いている人間なんですよ。居場所がないから、外国人がくるとすっとんでくる。そういうわけでバードを読んだ時、イトウ側からのこともかなり想像できて、小説にしたら面白いなと思っていたんです。そうしたら中島さんが書いているのを見つけたわけです。
中島 イトウは書きたくなる人物ですよね。バードも、無名のガイドのことを詳しく書いているのはイトウと、あと『ロッキー山脈踏破行』に出てくる、恋愛関係にあったといわれるジムだけ。
高野 でも僕はそういう実在の人物をどう小説に書けるのか全然分からなかった。それで、『イトウの恋』を読んで、こんな風に面白く書いてくれる人がいるんだと思ったんです。そこからデビュー作の『FUTON』も読み始めたらこれが素晴らしくて、次の短編集『さようなら、コタツ』では表題作を繰り返し読んで……。
中島 え、あの女性が主人公の表題作を、ですか。
高野 僕が辺境に行くことを仕事にしているのは、知らない世界に行くのが好きだから。するとある意味、いちばん知らない世界って、女の人の世界なんですよね。特に僕は縁がなかったから。女の人が部屋に一人でいる時に何をしているかなんて、絶対に分からない。
中島 まあ、秘境小説として読まれていたとは(笑)。


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〈プロフィール〉
原 宏一中島京子
1964年東京都生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務ののち、フリーライターに。米国滞在を経て、2003年『FUTON』で小説家としてデビューする。2010年『小さいおうち』で直木賞受賞。著書に『イトウの恋』『さようなら、コタツ』『ツアー1989』、エッセイに『ココ・マッカリーナの机』など。
高野秀行高野秀行
作家。 1966年東京都生まれ。大学在学中に執筆した『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。著書に『ワセダ三畳青春記』(酒飲み書店員大賞)『アジア新聞屋台村』『辺境の旅はゾウにかぎる』等。
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