『捜し物屋まやま2』木原音瀬

捜し物屋まやま2

新たな依頼人は小学生!
捜しているのは“母親”で──!?

編集者の松崎は最近、自宅の心霊現象に悩んでいた。“霊感”を使って捜し物屋を営む担当作家の間山和樹とその弟・白雄に相談して無事引っ越すも、再び怪異が。和樹曰く、外国人女性の幽霊が部屋にいるらしい。成仏させようと奔走する松崎たちが辿り着いたのは、その霊の子供と思しき小学生・光だった。光は母が生きていると信じていて……。母捜しがもたらす予想外の結末とは。ドタバタ事件簿第二弾!

2021年10月20日発売
定価:704円(税込)
カバーデザイン:目ア羽衣(テラエンジン)
イラストレーション:穂積
ISBN:978-4-08-744309-7

『捜し物屋まやま2』刊行記念!

注目のボカロP・REISAIさんとコラボ!

『捜し物屋まやま』のイメージソング「Anemone」が誕生しました。

ショートショート特別編「ある秋の日」(木原音瀬著)をYouTube概要欄からお読みいただけます。https://www.youtube.com/watch?v=5bKH5_FKUE4

REISAIさんボーカロイドバージョンはこちらから

プロフィール

REISAI(レイサイ)

2021年1月3日より活動を開始したボーカロイド制作ユニット。動画・イラスト・作詞作曲などマルチな才能を持つ宛然サカナ(サナガラサカナ)と、作曲・編曲・ギターなど音楽に精通するYopi(ヨピ)の2名で構成される。初投稿作品「浴槽とネオンテトラ」は2021年10月現在YouTubeで65万回再生を記録しており、初投稿作品ながら多くのリスナーに愛される楽曲となっている。文学的でストーリー性のある歌詞と、J-POPやロック・ミュージックからも影響を受けたサウンドが特徴で、早耳リスナーたちの間でじわじわと拡がりを見せており今後の活躍が期待される新人ボーカロイドユニットである。

  • まやまかずき間山和樹(26歳)

    捜し物屋所長&小説家。白雄とは血の繋がらない兄弟。

  • まやましお間山白雄(26歳)

    捜し物屋スタッフ&マッサージ師。冷血な能力者。

  • とくひろゆうすけ徳広祐介(38歳)

    ドルオタ弁護士。捜し物屋と同じビル内の法律事務所に勤務。

  • みついかける三井 走(36歳)

    捜し物屋の受付&法律事務所の事務担当。天涯孤独の元引きこもり。

イラスト/穂積

特設サイト限定ショートショート 作:木原音瀬特設サイト限定ショートショート

 生鮮食品のコーナー、通路の脇の棚に山盛りにされた鮮やかな橙(だいだい)色が目に入り、和樹(かずき)はふと足を止めた。そんな時季かと思うと同時に、古い記憶が湧き出してくる。神社の境内に、熟れた柿。今思い出しても、寂しさのようなものが巻き付いてくる。
「やっぱ間山(まやま)センセじゃないすか」
 振り向くと、傍にジャージ姿の男が立っていた。至近距離に、少しビビる。担当編集者の松崎(まつざき)だ。
「こんなトコで会うと思わなかったすよ。センセ、自然派だったんすね」
 顔をのぞき込んでそう聞かれた。
「何それ?」
「ここ、オーガニック系のスーパーじゃないすか」
「そうなの? 弟に調味料買ってこいって指定された店だから来たんだけど。そういやあるもん、全般的にちょっと値段、高いかもな〜」
 ははっ、と松崎がすきっ歯をチラ見せしながら笑う。
「センセ、食にこだわる意識高い系って雰囲気じゃないすもんね」
 微妙にイラッとするも、怒るってほどじゃない。が、顔の前をハエがぶんぶん飛んでるみたいな鬱陶しさがある。
「あぁ、ちょうどいいや。センセにお願いあるんすよ。センセんちって、アイドル好きの三人、よく集まってるでしょ」
 松崎はトートバッグから、何かを取り出した。
「さっき預かってきたんすけど、その三人に渡しておいてくれませんかね」
 差し出されたのは、三通の封筒。一番上の封筒には黄色い花が、二通目と三通目にはピンクの花が描かれている。
「アネモネの花の絵の横に、誰宛なのか名前書いてるんで」
「三井(みつい)っちと祐(ゆう)さんはいいけど、ポリさんはいつ会えるかわかんないし」
「あーいいっすよ。その三人に地下アイドルのCDもらったって、そのお礼状っぽいんで、別に急いでないっしょ」
 そういえば少し前、地下アイドル好きの三井、徳広(とくひろ)、宝井(たからい)の三人が、握手券用に複数枚購入したアイドルのCDを、将来のファンとして有望な小学生にあげた、と話していたのを思い出した。徳広は「聴きたがっている子に進呈して布教する、これこそファンとして正しい姿だよ」とか何とか語っていた。
「ここのスーパー、無農薬調味料の品揃(しなぞろ)えがめちゃいいらしくて、たまに俺もママにお遣いたのまれるんすよ〜ネットで買ってくれとか思うんすけど、店頭販売しかしてないとか言われて〜」
 松崎は一人でべらべらと喋(しゃべ)る。聞いてはいるが、聞いてなくてもいい内容なので、めんどくさくて「あぁ」「そう」とやる気のない相づちを連発する。
「じゃ、そろそろ俺行くんで。センセ、捜し物屋の副業もいーんすけど、何かビビッときたら新作小説のプロット、送ってくださいよ〜」
 両耳の横に人差し指を添えてピコピコと動かす姿が猛烈にウザい。「まぁね」と適当に流していたら「一発当てる気でやってくださいよ」と変にはっぱをかけられた。
 きびすを返し、もう行くのかと思われた松崎が「あ」と小さく声をあげた。
「センセ、柿好きなんすか?」
 胸が、ぐわんと揺れる。 「どーして?」
「あ、いや。何かさっき、じーっと柿見ている兄ちゃんいるなって思ったら、センセだったんで〜」
「俺、柿嫌いだし」
 松崎は「そうなんすか? 俺は好きっすよ。干し柿とか」と言ってきて、思わず「爺(じい)さんか」とツッコミを入れたくなる。
「けどま、嫌なモンほど目に入るっての、あるあるっすよね〜」
 松崎がスーパーを出て行く。和樹はハアッとため息をつき、橙色の余韻を引きずりながら、調味料コーナーを探して案内表示に目を向けた。

著者紹介

木原音瀬(このはら・なりせ)

高知県生まれ。1995年「眠る兎」でデビュー。『箱の中』『美しいこと』「吸血鬼と愉快な仲間たち」シリーズをはじめとするボーイズラブ作品を多数発表。著書に『ラブセメタリー』『罪の名前』『捜し物屋まやま』『コゴロシムラ』など。

捜し物屋まやま

シリーズ第一弾!
『捜し物屋まやま』
木原音瀬