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2019年・新春特別インタビュー 野口卓さん

2019年 新春特別インタビュー 野口卓さん

聞き手・細谷正充さん

2011年に『軍鶏侍』で小説家デビュー。以来、時代小説の新しい担い手として活躍の場を広げている野口卓さん。集英社文庫でも昨年、『なんてやつだ よろず相談屋繁盛記』が発売即重版のヒットとなりました。その〈よろず相談屋繁盛記〉シリーズの第2弾、『まさかまさか よろず相談屋繁盛記』が新春1月発売です。そんな野口卓さんを激賞、「野口卓、一択!」の名フレーズを生んだ文芸評論家・細谷正充さんが直撃インタビュー! 作家のとしての原点、作品に込める思い、これまでにない〈よろず相談屋繁盛記〉の楽しさなどなど、他では読めない話をたくさん聞きました。


藤沢周平作品と出会って
時代小説の面白さを知りました

細谷
デビュー作に衝撃を受けて以来、野口さんの小説を愛読しています。いろいろお聞きしたいことがあったので、今日を楽しみにしていました。まず読書体験からうかがいたいのですが、小さい頃はどんな本をお読みでしたか。
野口
子どもらしい冒険ものなどをよく読んでいました。翻訳本だと『モヒカン族の最後』とか。 
細谷
図書館の児童書の棚にあるような本が多かったのですか。
野口
そうですね。本好きだった姉の影響もあると思います。歩きながら読んだりしていましたね。初めて時代小説を読んだのは、中学2年から3年になるときだったかな。数学の教師がなぜか吉川英治の『宮本武蔵』を持ってきて、「野口、これを読め」と。数学が弱かったからか、あまり勉強をしなかったからか、理由はわかりませんが……。それがとても面白かった。ただ、その後も時代小説を読み続けたわけではないんです(笑)。
細谷
大人になってからは、どんな本を読まれたのですか。
野口
編集の仕事をしていたときに親しかった友人たちが、男性も女性も本好きで。会うと本を紹介しあっていましたが、彼らが勧める本にはハズレがなく、いつも参考にしていました。当時からずっと読んでいるのは宮部みゆきさんですね。現代ものも時代ものも。
細谷
特に時代小説を好んでいたわけではなかった、と。
野口
そうなんです。ところがあるとき、月刊誌でCDの頒布会の会報の仕事をすることになったんですね。クラシックとかジャズとかいろいろなジャンルがあるなかで、たまたま私が担当したのが時代小説の朗読。藤沢周平作品を取り上げることになって、初めて読んだのですが、もうびっくりしました。面白くて、刺激的で。すぐに書店に行って文庫を買い込み、2か月で50冊くらい読んだと思います。その後現代ものも含めて、藤沢作品はほぼ全部読みました。
細谷
野口さんの作品もそうですが、藤沢周平さんの時代小説にはどこか純文学的な匂いがしますよね。
野口
周囲に文学好きが多かったので、純文学も含めていろいろなジャンルのものを読んではいました。純文学の匂いというのは、藤沢作品に惹(ひ)かれたひとつの理由かもしれませんね。
プロフィール

野口卓(のぐち・たく) 1944年徳島県生まれ。立命館大学文学部中退。93年、一人芝居「風の民」で第3回菊池寛ドラマ賞を受賞。2011年、『軍鶏侍』で時代小説デビュー。同作で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞。著書に『ご隠居さん』『手蹟指南所「薫風堂」』『一九偽作旅』『大名絵師写楽』などがある。

細谷正充(ほそや・まさみつ) 1963年埼玉県生まれ。文芸評論家。書店勤務のかたわら書評などを手掛け、のちに独立。歴史時代小説やミステリーなどの作品を中心に、書評や解説を数多く執筆。何よりのモットーは「締め切りを守る!」。