よみもの・連載

2019年 新春特別インタビュー 野口卓さん

聞き手・細谷正充さん

細谷
確かに最近は、個性重視とか多様化とかいうわりに、人を画一的に決めたがる傾向がある気がします。
野口
そうなんです。大人が扱いやすい人間、平均化された人間ばかりが作られようとしている、というか。ただ、そういう私の意見を小説で説明すると説教になってしまうので、ギリギリのところで読者にわかっていただけるように書いたつもりです。
細谷
信吾と将棋で対局して負けたハツに、彼がかけた言葉も大事ですね。言い方次第では、ハツは変わってしまったのではと思いました。
野口
信吾が大人目線で声をかけたら、ハツは殻に閉じこもったかもしれない。大人が子どもにどういう姿を見せるかはとても大事ですが、あの信吾とハツの場面は納得していただけたのではないでしょうか。ただ、信吾は二十歳にしては老成した面がありますよね。私が二十歳の頃は何も考えていなかった(笑)。ある程度齢をとった今だから、信吾が子どもを導く姿を書けたのだと思います。時代小説に限っては、デビューが遅くてもいいのかもしれませんね。もしも私が30歳ぐらいでデビューしていたら、むきになって書いてしまって、こういう場面を面白くできなかったと思います。
細谷
今後のよろず相談屋繁盛記シリーズについては、どんな展開を考えていらっしゃいますか。
野口
場合によっては周囲の人物が準主役になるようなものも、と考えています。シリーズ1作目も2作目も、ちょっとだけ出てきた人物がいるので、そういう人たちを再登場させたり。巌哲和尚のことは書いてみたいですね。たとえば、和尚の家庭の事情が信吾にも関係している、とか。信吾の恋など、いろいろな話が作れそうで楽しみな分、どうやっていこうかなという悩みもあります(笑)。
プロフィール

野口卓(のぐち・たく) 1944年徳島県生まれ。立命館大学文学部中退。93年、一人芝居「風の民」で第3回菊池寛ドラマ賞を受賞。2011年、『軍鶏侍』で時代小説デビュー。同作で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞。著書に『ご隠居さん』『手蹟指南所「薫風堂」』『一九偽作旅』『大名絵師写楽』などがある。

細谷正充(ほそや・まさみつ) 1963年埼玉県生まれ。文芸評論家。書店勤務のかたわら書評などを手掛け、のちに独立。歴史時代小説やミステリーなどの作品を中心に、書評や解説を数多く執筆。何よりのモットーは「締め切りを守る!」。