よみもの・連載

2022年新春対談 野口卓×上田秀人
奮闘記に奮闘する私たち

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

江口
ただ、若い世代の方々が楽しんでいるマンガなどの作品を見ると、意外に時代物・歴史物は多いんですよ。弊社のタイトルでいえば『鬼滅の刃』を筆頭に、古代中国が舞台の『キングダム』も大ヒットしていますし、コロナ禍のなかで、医者が主人公である『JINー仁ー』も再び注目いただけました。歴史に材をとった作品で、若い人に届いているものは多いので、時代小説のほうでも何か起こせるはずだと思っています。
上田
ファンタジー設定の時代小説、というのも入り口のひとつになるかもしれませんね。そこからどんどんハマっていただけたら、と。いろんな入り口があるといいですね。
江口
時代小説の入り口としても、野口さんの1月刊『風が吹く めおと相談屋奮闘記』、そして上田さんの2月刊『辻番奮闘記四 渦中』を手に取っていただけると嬉しいですね。おふたりは幅広くご活躍されていますが、2022年、他に新刊のご予定はありますか?
上田
他社さんなのですが、レギュラーのシリーズはいつも通り、他に徳間文庫、講談社文庫から新シリーズを始めます。野口さんはいかがですか?
野口
時代小説ではないのですが、3月に実業之日本社から、シェイクスピア四大悲劇をモチーフにした『逆転』が出ます。四大悲劇の脇役や端役を主人公にして、その人の視点と立場から、皆さんがよく知っている物語をとらえ直していくというものですね。
江口
おふたりの作品楽しみにしています。対談の最後に、2022年、気持ちも新たに本を読んでいくにあたって、おふたりにオススメの一冊を挙げていただければと思うのですが、いかがでしょうか。たとえば、「私はこれを読んで小説家になった」というような本がございましたら。
上田
私は隆慶一郎さんの『影武者徳川家康』です。本当に衝撃を受けた作品ですね。もう、むさぼるように読みました。
野口
私は、ヘンリー・ミラーの『北回帰線』じゃないかな、と思います。あの作品に刺激を受けて、作家としての自分が動きだしたといいますか、原動力になりました。『南回帰線』も合わせてオススメします。
江口
ありがとうございます。集英社文庫としても、「これを読んで作家になった」と言ってもらえる作品を、これからまた生みだしていければと思います。2022年5月には、集英社文庫創刊45周年を迎えます。より読者の皆さんに求めていただけるような文庫になっていきたいと考えておりまして、「奮闘記」に奮闘するおふたりのお話に、強く刺激を受けました。引き続きのご健筆をお祈りしております。


プロフィール

野口 卓(のぐち・たく) 1944年徳島県生まれ。立命館大学文学部中退。93年、一人芝居「風の民」で第三回菊池寛ドラマ賞を受賞。2011年、「軍鶏侍」で時代小説デビュー。同作で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞。著書に『ご隠居さん』『手蹟指南所「薫風堂」』『一九戯作旅』『からくり写楽―蔦屋重三郎、最後の賭け―』などがある。

上田秀人(うえだ・ひでと) 1959年大阪府生まれ。大阪歯科大学卒業。97年第20回小説CLUB新人賞佳作を受賞しデビュー。以来、歴史知識を巧みに活かした時代小説、歴史小説を中心に執筆。2010年、『孤闘 立花宗茂』で第16回中山義秀文学賞、14年『奥右筆秘帳』シリーズで第3回歴史時代小説作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。『勘定吟味役異聞』、『百万石の留守居役』ほか、人気シリーズ多数。

江口 洋 集英社文庫編集部部次長