よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「わぁ……」
 僕は、思わず声をあげてしまった。
 土蔵の中は、魔法使いの住処(すみか)だった。
 裸電球が照らし出したのは、額に入った博物画、棚に並べられた天球儀や地球儀、積み上げられた古い書物の数々だった。
 古びた棚や机の上に、綺麗な石も並べられている。それは、裸電球の暖かい光を受けて、キラキラと輝いていた。透明なものも、緑色のものも、紫のものもある。どれも美しく光り輝いていて、魔力を秘めているのだと言われても信じてしまうだろう。
 どれもが古いもののようで、所々が色褪(いろあ)せたり、欠けていたりもしたけれど、年季の入った様子が彼らを年老いた賢者のように見せていた。
 土蔵は冬の空気で満たされているはずなのに、裸電球で照らされた世界はぬくもりに溢れていて、すっかり寒さを忘れてしまった。
「凄い……。これが、お祖父ちゃんのコレクション……。見たことが無いものまであるな……」
「そこに、誰かいるのかい?」
 僕の独白に、透き通った声が重なった。
 びっくりしてそちらを見やると、骨董(こっとう)の棚の後ろから、音もなく人影が現れる。
「ぼ、僕は……」
 その姿が明らかになった瞬間、僕は言葉を失った。
 相手は、僕と同じくらいの年齢の少年だった。だけど、僕よりもすらりとして、少しだけ目線が高い。
 彼の髪は、銀糸で編んだように細やかで、肌は真珠のように滑らかで白かった。真っ白なシャツが彼の繊細さを一層際立たせていて、触れれば消えてしまいそうな儚(はかな)さを感じた。
 綺麗な男の子だ。そう思うと同時に、不思議な懐かしさを感じた。
 初対面のはずなのに、彼のことをずっと前から知っていて、彼に会えたことに安堵(あんど)する自分がいた。
「君は、ここの家の子だね? 名前は――樹(いつき)だ」
 僕が自己紹介をするより早く、彼は僕の名前を言い当てた。
「えっ、どうして僕の名前を?」
「君を、知っているからさ。久しぶりだね」
 彼は包み込むように微笑んでくれた。その笑顔に、吸い込まれそうになる。やはり、何処(どこ)かで会ったことがあるのか。親戚か、それとも近所の子か。
 でも、僕は全く思い出せない。こんなに印象的な人物、忘れるはずがないのに。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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