よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「確かに、僕も骨董品は好きだよ」
 雫は双眸(そうぼう)を閉じて小さく頷く。長い睫毛(まつげ)が、僅かに揺れた。
「でも、一番馴染みがあるのは、鉱物収集かな」
「鉱物収集?」
「石を――集めるのさ」
 雫は、机の上に並べられた石に視線をやる。
 そこには、両手で抱えてようやく持てるほどの石が幾つか置かれていた。裸電球の優しい光に照らされて、キラキラと輝いている。鮮やかな緑色の六面体やら、水のように透き通った六角柱が集まった様子は、どれも幾何学的で美しく、子供の頃に読んだ冒険譚(たん)に出て来る、宝物の山のようだった。幾つか、見知った石もある。恐らく、祖父の部屋に置かれていたものだろう。
「これは、紫水晶(アメシスト)」
 貴婦人のような紫色の、透き通った石を指し示す。土台のような岩から、オベリスクの尖塔のような透明な結晶が、幾つも突き出していた。どの結晶も、天を高く高く仰ぐように先端を尖(とが)らせていて、そこから乱反射した照明が、チカチカと瞬き、僕の目を眩(くら)ませた。
「樹は、水晶(クオーツ)を知っているかい?」
「う、うん。この紫水晶と同じ形の、透明なやつだっけ」
「そう。酸化鉱物にして、六方晶系。最も一般的な鉱物だね。昔は、氷の化石だと言われていたようだよ」
 雫は自分のポケットを探る。すると、手のひらに収まるほどの、透明で先端が尖った六角柱の結晶が現れた。
「どうぞ」
 雫は、僕にそれを差し出す。僕はおずおずとそれを受け取った。
 ひんやりとしていて、硬い。確かに、氷が石になってしまったら、こんな風になるかもしれない。
 僕は納得しながら、手のひらの上の水晶を、そっと撫でてみた。
「柱面に、平行な線が描かれているのが分かるかい?」
「えっ、あ、本当だ……」
 水晶の側面には、横線が何本も描かれていた。
「それは条線。水晶は、伸び方向に対して直角に条線が入っているのが特徴なんだ。それは、水晶の成長の跡でね。それが縦だと、別の鉱物の可能性がある。また、水晶でも、それが斜めの子がいる。そういう子は、人工的に急成長させた子の可能性がある」
「へぇ……」
 相槌を打ったものの、僕の脳裏には疑問が過(よぎ)る。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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