よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「これも人工だと思ったけど、そうじゃないんだ……」
 手の中の水晶と、机の上の紫水晶を見やる。
「どうして、人工だと思ったんだい?」と雫が尋ねた。
「だって、とても綺麗な形だから……。やっぱり、職人が削ったのかなって」
 僕の答えに、雫は「ふふっ」と笑った。
「これはね、天然だよ」
「誰かが削ったんじゃなくて?」と返してしまった。俄(にわ)かには、信じ難かったから。
「敢(あ)えて言うのならば、地球が作り出した彫刻さ」
「地球が、作り出した……」
 僕は、手の中の水晶をまじまじと見つめる。上から見れば六角形、横から見れば尖塔のようなそれは、見れば見るほど均整が取れていて、秩序で満たされていた。条線こそ入っているものの、向こう側が見えるほどに透き通っていて、磨いたとしか思えなかった。
「自然物って、もっとこう、カオスというか……。そこら中に落ちている石はごつごつしてるし、木はでこぼこしてるけど……」
「岩石は、色々な鉱物の集合体だからね。それに、植物や動物は、とても複雑な構造をしているから、一見すると無秩序に見えるのさ」
「鉱物は違うの?」
 僕が首を傾げると、雫は間髪を容れずに答えてくれた。
「鉱物は、地球の最小の単位のようなものさ。岩や土を細かく分類すると、鉱物になるんだ」
「構造が複雑だと、形も複雑になる。それじゃあ、鉱物はその逆ってこと……?」
「純粋で単純だからこそ、秩序に満ちた形に見えるんだよ。と言っても、そういう鉱物ばかりではないけれど」
 雫はそこまで言うと、紫水晶に視線を戻した。
「さて、話を戻そうか。紫水晶も、水晶も、同じ石英の仲間なんだ。でも、紫水晶は微量な鉄イオンを含有していて、天然の放射能の影響でこのような色になったのさ」
 雫は、細い指先で紫水晶の先端を撫でた。
「けれど、太陽光をずっと当てておくと、紫水晶の色は抜けてしまうんだ。だから、こういう場所で保管しておかないといけないのさ」
 雫が天井近くを見上げると、小さな窓があった。そこから外の光がこぼれているものの、石に降り注ぐまでには至らない。太陽の位置が変われば日の当たり方が変わるのだろうけど、この紫水晶が長い時間、陽の光に晒(さら)されることはないだろう。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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