よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「わっ……」
 緑色の蛍石は、ブラックライトの光の中で、ぼんやりと妖しく光る。
 裸電球の光で見た時は爽やかな緑色だったのに、今や、魔女が作る秘薬のような紫色をしていた。
「全ての蛍石が、こうやって蛍光するわけではないのだけどね。でも、面白いだろう?」
 雫に問われ、僕は何度も頷いた。
 雫がブラックライトを消すと、土蔵の中は暗闇に包まれる。僕は、慌てて照明のスイッチを入れた。
「このブラックライトで、紫外線を照射してみたのさ。古いものだけど、君にあげるよ。人間の目にはかなり刺激的だから、ライトを直接覗き込んだり、長時間、光を見つめたりしないようにね」
 雫は僕にブラックライトを手渡してくれる。手のひらサイズだが、意外とずっしりとしていた。塗装の所々が剥げていて、使い込まれたものであることは明らかだった。
「いいの?」
「いいよ。いずれ、君の物になるのだから」
 雫はさらりとそう言った。
 そうか。これは雫の物ではなく、祖父の物か。
「ああ、そうだ。一つ、忠告をしてもいいかい? 蛍石を、決して熱してはいけないよ」
「熱する機会なんて無いと思うけれど、どうして?」
「熱された蛍石は、まばゆく光ってね――」
「へぇ……」
 この小さな八面体が、裸電球や紫外線を当てた時とは違う光り方をするのだという。この健気(けなげ)で儚そうな石が、さぞ美しく輝くのだろうと想像に胸を膨らませた。
 だけど、雫の言葉には続きがあった。
「割れて、弾けてしまうんだよ」
「えっ、危ない!」
 思わず顔を青ざめさせる僕に、雫は深々と頷いた。
「熱すると光るという特性から、蛍石と呼ばれているのだけどね。どうしてもその様子を見たいのならば、ちゃんと安全を確保した上で臨まなくてはいけないんだ。そうでないと、怪我をしてしまうからね」
「う、うーん。しばらくは、見なくても良いかな……。またの機会に、安全を確保出来た時にでも……」
 そう思うくらい、今日は沢山のことを知れた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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