よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「どう見ても、違うものに見えるけど……」
「日本式双晶も、よく見ると根元が六角柱だよ。結晶面の発達にばらつきがあるから、一般的な水晶よりもいびつに見えるけれど」
 雫は、ハートにおける二つの山の、いずれかの天辺から見てみるようにと促す。言われるままに観察してみると、確かに、平行する二辺がやたらと伸びた六角柱になっていた。
「双晶と言うように、この子達は双子なんだ」
 雫は、ハートの真ん中を指でなぞる。よく見れば、そこには薄っすらと線が描かれていた。そこから、二本の板状の水晶が向き合うように伸びていた。
「もしかして、ここから生えてるの……?」
「そうさ。よく分かったね」
 雫は微笑む。その笑顔を前に、自分よりもずっと年配の人に褒(ほ)められたような、誇らしげな気持ちになる。
「日本式双晶は、八十四度三十四分で接合した水晶の双晶を指すのさ。昔は、主に山梨県で産出していたようだね。夫婦(めおと)水晶なんて呼ばれていたんだ。その中でも大きな標本を使って、眼鏡を作っていたという話もあるんだよ」
「水晶で眼鏡なんて、何だか重そう……」
 僕は、手の中でずっしりとした存在感を醸し出している水晶を見つめる。
「確かに。でも、昔のことだからね。兎に角、それだけ沢山出たということさ」
「どうして、日本式っていう名前なの?」
「日本特有の珍しい双晶だからだよ。とは言っても、フランスでもかなり前から産出していたというし、ペルーの双晶も見事だ。そんな中、日本の名前がなんとか残っているのは、稀有なことだと思う」
 雫は、日本式双晶を眺めながら微笑む。
 でも、それは今までのような、包み込むような笑みではないような気がした。ほんの少しだけ、その澄んだ瞳に憂いを抱いているようにも見えた。
「この日本式双晶も、日本で採れたの?」
 僕がそう尋ねてみると、雫はハッとしたようにこちらを振り向いた。
「そう、だね……」
 その唐突な歯切れの悪さに、胸がざわついた。聞いてはいけないことを聞いてしまっただろうか。
「やっぱり、山梨県で……?」
「それが、分からないんだよ」
 雫は、寂しそうに微笑んだ。その笑顔があまりにも痛ましく、心臓の辺りがギュッと締め付けられる。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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