よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「それは、君にあげるよ」
「でも……」
「草薙の家の子だからね。達喜のものを持つ権利がある」
「あっ、これもお祖父ちゃんのだったんだ」
「そういうこと」
 雫は、少しだけ悪戯っぽく微笑む。僕も、つられて笑ってしまった。
「またね」と雫に別れを告げると、僕は土蔵の扉に手をかける。しかし、反対側の腕を、雫に掴(つか)まれた。
 雫の手は、ひんやりとしていた。陶器の人形なのかと思うほどに、その指先は美しく、それでいて、硬かった。
「雫?」
「僕と、約束してくれないかな」
 そう言った雫に、「何を?」と僕は目を瞬かせる。
「今日、ここで僕と出会ったことは内緒だよ。ふたりだけの秘密だ。いいね?」
 人差し指を唇に当て、雫は僕に言い聞かせる。
 ふたりだけの秘密。
 それがとても甘美な響きのように感じて、僕は黙って頷いたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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