よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「水晶は――」
 祖父の視線の先には、水晶の森がある。僕もまた、祖父につられて背より高い水晶を眺めた。
「水晶は、最も一般的な鉱物だ。ほぼ、どの産地でも見つかる。それがゆえに、種類も豊富だ。インクルージョンを楽しむことも出来る」
「インクルージョン?」
「水晶の中に入っている、別の鉱物などのことさ。ほら――」
 祖父は、僕が歩いて来た道の方向を指さす。そこには、あの植物のようなものが入った水晶があった。
「あれは、緑泥石という鉱物だ。ススキや草のように見えるから、そういうものが入っている水晶を、ススキ入り水晶とか草入り水晶とか呼んでいるがな」
「えっ、あれ、鉱物だったの!?」
 目を丸くする僕に、祖父は満足そうに頷いた。
「水晶は奥が深い。たいていの収集家は、水晶に魅せられて鉱物を集め始め、様々な鉱物にも手を出すが、最終的に水晶に戻って来る」
「お祖父ちゃんも、そうだったの?」
 祖父の横顔を眺めつつ、僕は問う。僕の隣では、メノウが寄り添うように座っていた。
「ああ。水晶は、紫水晶や黄水晶(シトリン)、紅水晶(ローズクオーツ)などと色付きも多いが、色が付いていないのが一番いい」
「透明な水晶、綺麗だよね……」
「そうだな。だが、瑪瑙も面白い。あれも水晶の仲間のようなものでな。姿形はまるっきり違うが、成分は同じだ。瑪瑙は、どちらかと言うと模様を楽しむものだな」
 祖父がそう言うと、隣にいたメノウは「ワン!」と嬉しそうに鳴いた。
「瑪瑙は――、外国に採集に行ったものだ。オーストラリアのキャンプ場に泊まって、他の外国人と一緒に瑪瑙を掘ったんだ。あれは楽しかった。何処を掘っても、瑪瑙がごろごろと出て来るんだ」
 祖父は偏屈に歪められた唇を愉快そうに緩ませて、在りし日を語る。僕の頭の中には、祖父と海外の友人が楽しそうに語り合いながら、瑪瑙を掘っている様子が浮かんだ。
「瑪瑙は、石英の塊だ。切ってみるまで、模様は分からない。水が入ったバケツに墨を垂らすと、じわじわと広がって模様が出来るだろう?」
「え、うん」
 唐突な問いかけに、僕は頷く。
「瑪瑙の模様は、ああいう風に出来たんだ。火山活動で、石英の成分を含んだ熱水が、岩の隙間に流れ込む。そういうのが固まったものだ。本来は無色透明だが、その時に含まれた不純物によって、色がつき、模様が出来る」
 それは赤だったり、黄褐色だったり、紫だったりするらしい。時として、その模様は風景のように見えるのだと、祖父は付け足した。
「揺らめく炎であったり、湖の向こうに沈む夕日であったり、様々なものに見立てられる。そういう意味では、水石の連中と似たような楽しみ方かもしれんな」
 水石とは、岩石を風景に見立てるものらしい。こちらは、一昔前にブームになった趣味だそうだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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