よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「瑪瑙は、まとめて仕舞っておいたはずだ。産地別にな。箱にラベルが貼ってある」
「僕、見てみても良いかな……」
「割るな、汚すな、別の箱に仕舞うな。これを守れるならば、見てもいい」
「やった……!」
 僕は思わず、顔を綻ばせる。
「それじゃあ明日、土蔵の中を探してみるよ。あ、土蔵といえばさ」
「うん?」
「雫っていう僕くらいの男の子に、日本式双晶のことを教えて貰ったんだ。あの、お祖父ちゃんの部屋に飾ってあったやつ」
「日本式――双晶。あの、産地不明の――」
「う、うん」
 祖父の表情が強張る。禁句だっただろうか。
 僕はとっさに、別の話題を探そうとする。だが祖父は、僕が歩いて来たのとは反対方向へと視線をやった。
 祖父の仰ぎ見るような視線の先には、大きな水晶があった。今まで生えていた尖塔たちとは比べ物にならないほど、巨大でいて、堂々とした日本式双晶が。
 ハート形の平らな水晶は、水晶の森の中心に重々しく鎮座している。それを眺めながら、祖父は鉛のような溜息を吐いた。
「あれは、俺の罪の証だ」
「お祖父ちゃんの、罪……」
「俺のせいで、あいつは帰る場所が分からなくなってしまった」
 後悔を深く刻んだ横顔に、僕は何と声を掛けて良いか分からなかった。僕は祖父につられて日本式双晶を見つめる。静かに佇む日本式双晶は、この森の主にして、巨大な墓標のようだった。
「お祖父ちゃん、僕は――」
 声を掛けなくてはと思いながらも、次の言葉が出て来ない。もどかしい気持ちで祖父の方を振り向いたものの、そこに祖父はいなかった。
「おじい……ちゃん?」
 そこには、祖父の背丈ほどの水晶が立っているだけだった。慌ててそばにいたメノウを見やるが、そこには、メノウもいなかった。メノウの大きさほどの小さな水晶が、僕に寄り添っているだけだった。
「メノウ、お祖父ちゃん!」
 水晶を掻き分けて探すが、彼らの姿はない。動くもののいない、死んでしまった世界が広がっているだけだった。
「折角会えたのに、どうして……」
「それは、朝が近いからだよ」
 透き通った、それこそ水晶のような声が、僕の耳に届く。
 振り返ると、日本式双晶の根元に、雫が佇んでいた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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