よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 帰宅部がお喋りをしながら帰る中、僕は一人で学校を後にする。小学校の頃から付き合っている友人は何人かいるが、彼らは皆、バスケ部やサッカー部、吹奏楽部などに入ってしまった。僕だけは、どれもしっくり来なくて、ずるずると帰宅部をやっている。
 いつもならば特に孤独感は無く、メノウが待つ家に帰るのが楽しみだったくらいだ。
 でも、今は違う。独りでいることがいたたまれなくて、学校に戻って学が帰るのを待とうかと思うほどだ。
「メノウがいない世界って、こんなにも寂しいものだったんだ……」
 空を見上げれば、少し橙色を帯び始めた空と、綿のような白い雲が浮かんでいる。その穏やかな空が、かえって僕の心を虚しい気持ちにさせていた。
 ポケットの中に手を突っ込むと、硬くてひんやりとした感触があった。
 昨日、雫から貰った小さな水晶だ。今朝、学校に来る前にポケットの中に入れたのを思い出す。
 すがりつくかのように、水晶をぎゅっと握る。
 家に帰っても、寂しさを紛らわせてくれるメノウはいない。僕が門を開けるなり尻尾を振って迎えてくれた愛しい家族は、僕の手の届かないところへ逝(い)ってしまった。
 そして、祖父ももういない。石のことについて聞きたかったのに、その気になった時にはもう聞く術が無くなってしまった。
 喪失感で満たされた胸に、冬の風が吹き込む。忘れなくてはと思えば思うほど、彼らの姿が鮮明に浮かび上がる。
 身を縮こまらせながら、僕は逃げるように自宅へと向かったのであった。

 住宅街の中をとぼとぼと歩くと、年季の入った塀に囲まれた家が見えて来る。
 新しい家々と並ぶとかなり浮いているその家は、我が家だった。
「あれ?」
 門を開けて、出て来る人物がいた。背が高い、若い男性だ。出(い)で立ちは地味だが、やたらと大きなナップサックが目を引く。
「あの――」
「わっ」
 僕が声を掛けると、その男性は目を丸くした。
「ああ、ビックリした。石を落とすかと思った」
「石?」
 男性はナップサックの中身を気にしていた。その中に、石が入っているのだろうか。
「で、何だい? 君、ここのうちの子?」
「あ、はい」
「もしかして、樹君? 達喜さんのお孫さんかな?」
 男性は、親しげな顔で身をかがめる。それほど背の高くない僕に、目線を合わせてくれたらしい。
「そう、ですけど。えっと、あなたは……」
 見たことがあるような気がする。でも、自己紹介をされた記憶はない。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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