よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「僕は、石井だよ。君のお祖父さんの石仲間」
「石仲間の石井さん……」
 妙に語呂がいい。
 それはともかく、おぼろげだが、思い出した。祖父を訪ねて、家に何回か来ていた人だ。祖父の部屋で、コレクションを広げて実に楽しそうに語らっているのを見て、ちょっと羨ましかったのを覚えている。
 祖父の告別式でも、姿を見かけた気がする。部屋の隅でぐすぐすと泣いている石井さんに、僕の母が付き添っていたはずだ。
「下の名前は律(りつ)。律さんか、りっくんでいいよ」
「じゃあ、律さんで……」
 律さんは見たところ、成人男性だ。大学生か社会人か判別出来なかったが、そんな年上の相手を『りっくん』と呼べるほどの度胸はない。
「律さんは、どうしてここに?」
「達喜さんの収集品の整理に来たんだ。君のお父さんには事前に連絡をしておいてね」
 だが、父は会社で仕事をしている最中なので、母に応対して貰ったのだという。今日は母のパート先の定休日で、律さんはそれに合わせて来たそうだ。
「僕が引き取れそうなのは、僕が買い取って、引き取れなさそうなのは、引き取ってくれそうな業者を紹介するってことでさ。鉱物は、地球からの贈り物だからね。ちゃんと、次に受け継がなきゃ」
 律さんは大真面目な顔で、雫と同じようなことを言った。
「鉱物収集って、大変ですね。普通のコレクションだったら、持ち主がいなくなっちゃったら、捨てることも出来るのに」
「いやぁ、普通のコレクションでも、捨てられたら悲しいと思うけどね。それはともかく、鉱物は地球の歴史を読み解く鍵の一つだからね。もし、コレクションが不要になってしまったら、元の場所に戻さなきゃいけないんだ」
「……どうしてですか?」
「うーん。黄玉(トパーズ)って知ってる?」
「ええ、なんとなくですけど。あの黄色くて、キラキラしているドロップみたいな宝石ですよね……?」
「多分、それはカットされたインペリアルトパーズかな。ブラジル産の、退色しないやつ」
 律さんは、そう前置きをして続けた。
「トパーズは主に、ペグマタイトと呼ばれる鉱床から採掘されるんだ。他にも、火山岩や気成鉱床中にも産出するけど、それは一先(ひとま)ず置いておこう。このペグマタイトっていうのは――、電気石(トルマリン)や海を閉じ込めた緑柱石(アクアマリン)みたいな、宝石になるような鉱物が沢山出て来る、希少な鉱床なんだけどね」
「へぇ……。凄(すご)いですね」
 律さんは、僕が知っていそうな石を選びながら説明してくれているようだった。お陰で、宝石がたくさん詰まった宝箱のような場所を想像出来た。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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