よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「そう、凄いんだ。鉱物採集をする人間の、憧れの場所さ」
 律さんは、頬を少し紅潮させ、興奮気味に言った。
「でも、そんな場所で採れるトパーズを、その辺の山に捨ててみなよ。他人にとって、それが捨てられたものなのか、元々そこにあるものなのかは分からないだろ? だから、その落ちていたトパーズを見つけた人が――」
「そこにペグマタイトっていうのがあると思っちゃう、ってことですか……?」
「そう! その通り!」
 律さんは拳を振り上げる。
「地質的に出ないはずの鉱物を置くと、そんな混乱が生じてしまうんだ。鉱物を研究している人達もいるしね。そういう人達の妨げになっちゃう。だから、石を手放す時は、その辺に捨てちゃ駄目なんだ」
「成程……」
「あと、普通に危ない鉱物もある。毒性があって水に溶けるやつとか、燃やすと有毒ガスが出るやつとか、放射能があるやつとか」
「ええ……」
 僕は思わず半歩下がる。だけど、律さんは一歩踏み込んだ。
「鉱物収集には責任が伴うんだ。でも、その分だけやり甲斐もあるわけ。石に触れ、地球の活動の軌跡を感じるんだ」
 さっきよりも半歩近づいた律さんは、恍惚(こうこつ)とした表情でそう言った。
「で、樹君はどうだい? 石に興味は?」
「え、えっと、その、まだ、そこまでは……」
 律さんの勢いに圧倒され、思わずそう答えてしまう。すると、律さんは心底ガッカリしたような顔をした。
「そっかぁ……。まあ、君のお父さんもあんまり石に興味が無いみたいだったしね。趣味は受け継がれないのかぁ」
「まったく興味が無いわけじゃないんですけど……」
「本当かい!? それじゃあ、本格的に興味が湧いたらいつでも言って! これ、僕のメールアドレスと番号。あ、ラインの方が良いかな? アカウントも書いておくね」
 ナップサックのポケットからメモ帳を取り出すと、律さんはそこにラインのアカウント名などを書き、ページを破いて僕にくれた。
「あ、有り難う御座います」
 なかなかに癖のある字だった。僕は丁寧に折り畳み、水晶が入っているポケットの中に差し入れた。
「それにしても、君のうちも寂しくなっちゃったよね。メノウちゃんもいなくなったんだろう?」
 メノウの名前を出されて、僕はドキッとする。
「人懐っこい子だったよねぇ。僕もよく構ってたっけ。あの子、達喜さんのこと大好きだったし、ついて行っちゃったのかなぁ」
 律さんは、ぐすっと洟(はな)を啜(すす)った。僕は、「そう……かもしれませんね」と言うのが精一杯だった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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