よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 メノウのことを思い出すと、また胸の穴がじわじわと広がっていく。早く、別の話題を提供しなくては。
「あっ、そう言えば、日本式双晶がありましたよね。あれはどうするんですか?」
 指先に当たった水晶の感触で、唐突に思い出す。
「あったよね。すんごい立派なやつ」
 律さんは、感心したように頷く。だが、続いた言葉は後ろ向きなものだった。
「でも、産地が分からないと、引き取り手がなかなかつかないかも。僕も興味はあるんだけどさ、あれを引き取ったところで置ける場所も無いし、次に引き継げる自信も無いよ」
「そう、なんですか……」
「そうなんだよ。あれだけ立派なものだし、是非とも次に引き継ぎたい。でも、産地情報が国産っていうだけだからね。そこまで産地にこだわらない収集家ならば欲しがるかもしれないけど……。ただ、大きさも立派過ぎて、家に保管出来る人も限られるというか……」
 難色を示す律さんに、僕も思わずうつむいた。
 そんな僕の肩を、律さんはポンと叩く。
「まあ、何とかはするよ。幸い、時間があるしさ。樹君も、興味と時間があったら、手伝って欲しいな」
「あ……、はい」
 お役に立てる自信は欠片もありませんけど。と心の中で申し訳なく思いながら、去り行く律さんを見送った。
 ナップサックがどんどん遠くなる。あの中に、雫に紹介された石達は入っているのだろうか。
 律さんが住宅街の角を曲がって見えなくなったところで、僕も門を開けてのろのろと帰宅したのであった。

 門を越えた僕は、玄関を一瞥(いちべつ)しただけで、土蔵に向かった。
 雫は、いるだろうか。胸に鉛のように圧し掛かる喪失感を、どうにかして拭いたかった。
 そう思って土蔵の扉を開けてスイッチを入れると、あの穏やかな裸電球の灯りが、僕を迎えてくれた。僕は、心の中で胸を撫で下ろす。
「やあ、おかえり」
 骨董品や書物に囲まれ、雫がそう言って迎えてくれた。その姿は土蔵によく溶け込んでいて、この場所の主であるかのようだった。
 ふと、夢の中で見た彼の姿が頭を過ったけれど、現実の彼には、当たり前のように水晶なんて生えていなかった。
「ただいま、なのかな? 律さんと、遺品の整理をしてたの?」
 雫がここにいるということは、先程まで土蔵にいたという律さんと一緒だったということだろう。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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