連載
水晶庭園の少年たち
第三話 水晶の絆〈後〉(最終回) 蒼月海里 Kairi Aotsuki

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 暗闇から一転して、辺りは眩いばかりの光に包まれていた。それは薄い葉を太陽に透かしたような緑色で、目が覚めるような美しさと、優しい輝きを放っていた。
「わ、わっ、なに!?」
 美鈴さんが僕にすがりつく。
 地面はない。どちらが上で、どちらが下かも分からない緑色の世界に、僕達三人は漂っていた。
「大丈夫。これは幻想――あなた達の心に語りかけるものです。落ちたり傷ついたりはしませんから」
 石精は手を解(ほど)くと、その両手で僕達の肩をそっと抱く。懐かしいような安心感が、僕達を包んだ。
 美鈴さんもその感覚を味わったようで、深く息を吐き、少し落ち着いた様子で周囲を見回す。
 優しい緑は、燃えるように揺らいでいた。じりじりとした暑さがまとわりつき、皮膚に食い込むのを感じた。
「ここは……?」
「地球の、奥深くですよ」
 橄欖石の石精は、緑色の輝きを背に、そう微笑んだ。
「地球の奥深くって、マントル的な……?」
 僕の問いに、「ええ」と橄欖石の石精は頷いた。
「と言っても、あなた達の概念をもとに構成されたものです。我々にはあなた達のような知覚が無いので、見て来た世界をあなた達に正確に伝えることは出来ないんですよ」
「よ、よくわからないけど、これは幻で、あなたはこういうところから来たってこと?」
 美鈴さんはようやく浮遊感に慣れて来たのか、身を乗り出さんばかりにして辺りをきょろきょろと見やる。石精が言ったマントルの世界は、橄欖石を溶かして作った海の中みたいだった。
「あなた達の言う地面は、地殻と言います。その七十キロほど深いところに、マントルがあるのです。そして、更に深く沈むと、地球の外核、内核へと到達します」
 橄欖石の石精は、頭上を眺めながらそう言った。
「地下七十キロ……。そんな深いところから、あなたは地上に?」
「そうですね。マグマと一緒に、一気に上昇するのです。私はアメリカのアリゾナ州からやって来ましたが、玄武岩の母岩と一緒でしたね。玄武岩は、元々は同じところから来たものなのですよ」



 
〈プロフィール〉
蒼月海里(あおつき・かいり)
1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。
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第三話 水晶の絆〈後〉(最終回)
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第二話 薔薇の誘い〈後〉
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第一話 瑪瑙(めのう)の喪失〈後〉
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