よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 鉱物の種類は見た目や分析で分かるらしく、彼が石英(せきえい)一族の水晶で、日本式双晶と呼ばれる種類だということは確実だ。でも、日本の何処かで生まれたということ以外、故郷のことは分からなかった。
 彼が採集されたであろう場所は、幾つか候補があるらしいけれど、産地が不確実なことは、その鉱物の標本としての価値を損なうものだった。
「何度か確認、かぁ。忘れないようにしないと」
「確認作業は、僕がやろう。ふたりでやった方が、確実だろうしね」
「有り難う、雫」
「そうそう。ヒューマンエラーはダブルチェックで防止、ってね」
 少し離れたところで、僕が手を付けているのとは別の箱を整理していた若い男の人――律(りつ)さんが言った。
「あれ? でも、雫君は鉱物だからミネラルエラー? それとも、精霊だからスピリットエラー?」
 律さんは、妙に深刻そうな顔で首を傾(かし)げる。
「どちらでも構わないよ。人間に似た形態だし、ヒューマンエラーでも良いかもしれない」
 雫は、透き通った声でにこやかに返す。
「むむむ。石なのか霊なのか人なのか。樹君は、どちらだと思う?」
「う、うーん。僕としては、同じな方が嬉(うれ)しいから、人ですかね……」
「多様性があっても面白いと、僕は思うけどね。僕を構成する二酸化珪素(けいそ)は、水晶にもなるし、瑪瑙(めのう)や玉髄(ぎょくずい)、オパールにもなるし」
 雫は、さらりと選択肢を増やしてしまった。すると、律さんは膝を打つ。
「そっか。エラーも多種多様なのがいいね!」
「エラーをしないのが一番なのでは……」
 僕は困惑しつつも、机の上に置いた透明な鉱物に、拾ったラベルを添えた。
 しっかりとした紙の箱に入れられたその石は、水晶のように透明だったけれど、上から見ると菱形(ひしがた)のような形をしていて、先端はヘラのようにのっぺりしている。手のひらにすっぽりと収まる大きさで、ぽってりとして安心感がある。
「あっ、これってトパーズだったんだ」
 透明な鉱物のラベルには、トパーズと書かれていた。
 しかし、僕が知っているトパーズは、美味(おい)しそうな飴色(あめいろ)だった気がする。
「田上山(たなかみやま)のトパーズじゃないか。すごいなぁ!」
 後ろから顔を覗(のぞ)かせた律さんが、大いに目を輝かせた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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