よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「日本国内だと、他にはどんな産地があるのかな」
 トパーズのラベルを眺めながら、僕は問う。
 それに答えてくれたのは、律さんだった。
「福島県や岐阜県に、田上山に並ぶペグマタイトがあるね。スカルンで有名なのは秩父(ちちぶ)鉱山とかさ。青森県の恐山(おそれざん)では面白い形の石黄(せきおう)が採れるし、それなりに多いんだよ。ただ、掘り尽くされちゃってたり、採掘出来なかったりするところがほとんどかな」
「そうなんですね……」
「マナーが良い人もいるんだけど、そうじゃない人は本当に酷くてね。一攫千金(いっかくせんきん)を狙ってか、悪質な業者か、産地を荒らす連中がいるんだ。中には、重機を入れて地形が変わるほど掘る人とかね」
「酷い……」
「ホント、酷いもんさ」
 律さんは頭を振った。それを聞いていた雫もまた、悲しげに表情を歪(ゆが)める。
「あまりにもマナーが悪過ぎて、採集禁止になった産地もあるんだ。それでも採りに行こうとする連中もいるから、地元住民が警戒しているところもあってね」
「じゃあ、今は何処の産地も鉱物収集に行けないんですか?」
「いいや。出来る産地もあるさ。ただ、ツテが必要なところも多くてね。田上山だって、知り合いに連れて行って貰(もら)ったくらいだし」
 申し訳ない、と律さんはまた項垂れる。だがそれも、一瞬のことだった。
「でも、歴史的に有名な産地で採れた鉱物は、博物館でも展示されているからね! 会いに行くことは出来るよ!」
「そうなんですね!」
 僕は、律さんの勢いにつられるように表情を輝かせる。
「この近くだったら、上野の国立科学博物館がいいかな。日本館の三階に、大きな日本式双晶もあるし」
「へぇ」と興味深そうに、雫が声をあげる。
「同族か。興味があるね。僕と、どちらが大きいのかな?」
「うーん。向こうの方が大きかったかも。何せ、こんなんだしね、こんなん」
 律さんは、雫の一回りも二回りも大きいと言わんばかりに、両手をぐるぐる回してみせる。
「産地は?」
「山梨県甲府市って書いてあったね」
「それでは、乙女(おとめ)鉱山の子かな。それならば、立派なのも頷(うなず)けるね。会いに行ってみたいものだけど」

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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