よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 でも、車で運んで大丈夫だろうか。車だって振動はするだろうし、その所為(せい)で割れることもあるかもしれない。そうならないためには、梱包(こんぽう)をきっちりとしなくてはいけないのだろうけれど、いかんせん大きいので、どう包んだらいいか分からない。
 もし、雫を運ぶのだとしたら、プロを呼んだ方が良いかもしれない。それこそ、雫を一度は買い取った、骨董屋(こっとうや)さんのような……。
「うーん……」
「樹君、どうしたの?」
 唸(うな)る僕を、律さんは心配そうに見つめる。
「雫を迎えに行った、あの骨董屋さんを思い出していたんです」
「あ、ああ……」
 律さんもまた、骨董屋さんを思い出して遠い目になる。
 あの時は、父の手違いで、雫が宿る日本式双晶が、骨董屋さんに買い取られてしまった。骨董屋さんに迎えに行って買い戻すことで、何とか雫と再会出来たものの、買取価格に人件費やら何やらを上乗せされていたので、その分は律さんが払ってくれたのだった。
「あの人、僕はちょっとおっかなかったなぁ」
「僕もです……」
 ぶっきらぼうな態度と、睨(にら)むような目つきが忘れられない。
 町内にあるので、あれから何度か店の前を通るものの、店は開いているのか閉まっているのか分からないような佇まいで、挨拶どころか、店内の様子を見ることもままならなかった。
「ああ。彼は、僕の扱いに慣れているようだったからね」
 雫だけが唯一、声を少しばかり明るくする。
「彼ならば、上野どころか、乙女鉱山まで行けるくらいの梱包をしてくれそうだね」
「それには、がっつりと人件費がかかりそうだけどね……」
 律さんから、乾いた笑みがこぼれた。
 雫はあの人に悪い印象を抱いていないようだし、悪い人ではないのだろうけれど、とても気難しそうなのは間違いなかった。
 また会いたいような、そうでないような。
 そんなことを思いつつ、僕はのろのろと遺品の整理を再開した。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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