よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「どうしたんだよ、樹。ぼーっとしちゃってさ」
 僕が土蔵での出来事を思い出していると、クラスメートの学(まなぶ)が話しかけて来た。
「ああ、うん。ちょっと、お祖父ちゃんの遺品整理について考えてただけ……」
「あー。お前のところ、祖父さんのコレクションが凄(すご)いって言ってたもんな」
 学は、合点がいったように手を叩(たた)いた。
 昼休みなので、教室の中は騒がしい。窓辺では、数人の女子がイケメンアイドルの話をしていたり、廊下からはふざけ合う男子の声が聞こえたりした。
 校庭の一角では、花をつけた梅の枝がそよいでいる。
 ミネラルショーの後はあっという間に師走が過ぎ去り、新年になって、もうそろそろ進級という季節になっていた。
「鉱物がいっぱいあるんだろ? 俺、気になるんだよね」
 ミネラルショーに行って以来、学は鉱物に興味を抱いているようだった。理科の授業で鉱物の話題が出た時は、食い入るように教科書を眺めていた。
「砂漠の薔薇(ばら)はあるの?」と学は尋ねる。
「あるある。メキシコとか、モロッコとか、ペルーのなら」
 学は、アメリカ合衆国のオクラホマ州で採れた、重晶石(じゅうしょうせき)から成る砂漠の薔薇を持っている。学の様子を見る限りでは、石精が宿るその石を、大事にしているのだろう。
「ペルー産の砂漠の薔薇は、何故か灰色なんだよね」
 僕が記憶の糸を手繰り寄せながらそう言うと、学は「へぇー」と目を丸くした。
「うちの砂漠の薔薇は、茶色だけどな。いかにも、地中から湧き出て咲きましたって感じの」
「ペルー産の砂漠の薔薇は、産地の砂が灰色なのかもしれないね」
「あー、確かに。俺が迎えた石も、オクラホマの土の色だもんなぁ」
 砂漠の薔薇は、鉱物が砂を取り込みながら成長したものだ。その土地と同じ色合いになるのは不思議ではない。
「そう言えば、砂漠の薔薇って、基本的に砂漠で出来るんだろうけどさ。日本じゃ出来ないのかな?」
「日本に砂漠なんてあったっけ……?」
 僕は首を傾げるものの、甘いと言わんばかりに学は指を振った。
「あるだろ? 鳥取に」
「鳥取砂丘……?」
「あと、月の沙漠とか」
「御宿(おんじゅく)……だっけ。千葉県の」
 月の沙漠は、砂漠というよりは海岸だったけれど、鳥取砂丘は、見た目だけならば砂漠と言えそうだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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