よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「うーん。規模が違うんじゃないかな。あとは、環境が違うとか」
「へぇ?」
「日本は、水が凄く豊富なんだってさ。それこそ、海外諸国とは水回りの事情が違うほどにね。だから、砂漠の薔薇の元となる、重晶石や石膏(せっこう)の成分が地表に染み出して結晶化する前に、流されちゃうんだと思う」
 多分、と付け足しながら、学の反応を見る。
 すると、学は目を一層キラキラさせていた。
「なるほどなー! それじゃあ、日本だと大きな鉱物も出来ないのかな」
「そんなこともないんじゃないかな。昔は、大きな水晶とか、トパーズも出たみたいだし」
 土蔵での会話を思い出しつつ、僕は一先(ひとま)ず、雫の本体である日本式双晶の大きさをジェスチャーで示す。
「へぇー! トパーズってあれだろ。指輪なんかにはまってる、黄色っぽいキラキラした石」
「うん。ブラジル産の、インペリアルトパーズって呼ばれているトパーズなんかが、よく見るトパーズらしいんだけど。そういう色ばかりじゃないんだって」
 ブラジルのミナスジェライス州では、宝石鉱物が多く産出するらしい。僕達が目にしている石の中では、かなりの割合を占めているのだと律さんは言っていた。
「ブラジルってすごいな。サッカーとコーヒーのイメージが強かったけど」
「まあ、ブラジルは広いからね」
「だけど、黄色っぽい色以外のトパーズって見たことないな。まあ、トパーズ自体そんなに見たことないけど」
「お祖父ちゃんが採集したトパーズも透明だったかな」
「えっ、お前の祖父ちゃん、トパーズを採ったの!?」
 学が、大袈裟にのけぞってみせた。あまりにも大きな声だったので、窓辺にいた女子達がこちらを見やる。
「トパーズって宝石だろ? だからお前のうち、大きいわけ!?」
 学は、驚きつつも納得してしまう。
「うちとトパーズはあんまり関係ないかも……。宝石に加工出来る石って、ある程度大きくて、傷や濁りや内包物がないやつだし」
 祖父のトパーズは、結晶の形は綺麗だったけれど、内包物が多く入っていた。そしてよく見ると、中に小さなヒビだってあった。
「へー、そういうもんかな。それにしても、トパーズって採れるもんなんだなぁ」
 学はしみじみとそう言った。
「まあ、その辺に落ちているようなものじゃないけどね。自分で探すよりも、買いに行った方が安いし、良いのが手に入るって言われた」
「誰に」
「石に詳しい人達に」
 すなわち、律さんと雫に。僕の知識は、彼らの受け売りなんだということを、学に伝える。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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