よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「無色の他にも、青とかピンクもあるって聞いた。その辺はかなり貴重みたい。中には、放射線処理だか加熱処理だかで、色を変えたやつもあるみたいだけど……」
 この分野はそこまで詳しくないと断りを入れるものの、学は食い入るように僕を見つめていた。その背後では、いつの間にか世間話をしていた女子達が集まっている。
「草薙(くさなぎ)君って、宝石に詳しいの?」
 リーダー格の女子――山下春奈(やましたはるな)が、興味津々といった風に尋ねる。
 山下さんは、ややウェーブのかかった髪形で、大人っぽい顔立ちをしている。彼女は、世間話が大好きで、新しい話題を持って来ては、女子達の輪の中心になっている。イケメンアイドルの話やゴシップから、ニュースの話までとバリエーションが豊富で、僕は偶(たま)に、彼女の話に耳を傾けている。
「宝石に詳しいわけでは……。鉱物は、ちょっとだけならば分かるかも。詳しい人が近くにいるから」
「ああ、鉱石が好きなんだ! 私達もそうなの!」
 女子達はパッと表情を輝かせる。
「鉱石っていうと、黒鉱(くろこう)とかのこと?」
 黒鉱とは、主に日本海側で採れるという、黒い石のことだ。これも、祖父のコレクションの中に入っていた。
 閃亜鉛鉱(せんあえんこう)、方鉛鉱(ほうえんこう)、黄銅鉱(おうどうこう)などの金属鉱物から成り、それぞれを構成する金属を抽出して、工業に役立てているのだという。
 光を当てると金属光沢を放つ部分はあるけれど、女子が喜んで集めるには、渋すぎる代物だった。
 だけど、山下さんは首を横に振る。
「ううん。蛍石(ほたるいし)とか、水晶とか」
 山下さんは、僕に携帯端末の画面を見せてくれた。そこには、八面体に加工された可愛らしい蛍石の画像があった。
「えっと、これは鉱物だと思うよ。鉱石って、工業利用するための鉱物のことを指すらしいし……」
 いつだか、律さんが言っていたことを思い出す。
 鉱物は、身近なところで役に立っている。蛍石なんかは、フッ化カルシウムの結晶なので、フッ素の原料鉱物として重宝されているらしい。フッ素が含まれている歯磨き剤にも、使われているとのことだった。
 歯磨き剤や他の材料にするための鉱物を鉱石と呼び、カットしてアクセサリーなどにする鉱物を宝石と呼ぶらしい。と言っても、蛍石はとても綺麗だけど、もの凄く割れやすいので、宝石には向かないらしいけれど。
 それらの用途に使わず、原石のまま愛でるとなると、鉱物と言った方が正確なのではないだろうか。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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