よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「でも、本に鉱石って書いてあったんだけど」
 山下さんは不満そうだ。
「鉱山が沢山稼働していた頃は、鉱石も身近な存在だったらしいしね。それこそ、鉱山で働いていた人達が、見目が良い鉱物をこっそりと持って帰ってコレクションにしてたっていう話も聞くし……」
 鉱山で採掘しているのは工業利用するための鉱石だったので、そこで採れたものは皆、鉱石として括(くく)っていたのかもしれない。
 また、文学の世界でも、鉱物のことを鉱石と呼ぶこともあったので、その名残かもしれない。
 僕は、律さんから聞いた話を、何とか思い出しながら山下さんに伝える。
「じゃあ、鉱石でも良いんじゃない?」
「じゃあ、の意味があんまり分からないけど……。でも、ミネラルショーのミネラルって、和訳すると鉱物だし、鉱石を英訳すると違う単語になるから、鉱物って言った方が良いんじゃないかな……」
「ふーん。まあいいわ。石よね、石」
 山下さんは大雑把に括ってみせた。
「草薙君の家、こういうのがいっぱいあるんでしょ。いいなぁー」
 山下さんを始めとする女子達は、揃(そろ)って羨望の眼差しで見つめる。
「だ、駄目駄目」
 女子達と樹の間に入ったのは、学だった。
「そんな物欲しそうな顔をしても駄目だって! 樹の家の鉱物は、亡くなった祖父ちゃんのなんだから」
「あ、成程。お祖父さんの思い出の石かぁ」
「どんなのを集めてたの?」
 山下さんが率いる女子達は空気を読んでくれたのか、詰め寄るのをやめて、距離を保ちながら尋ねる。僕は胸を撫で下ろし、学に「ありがとう」という気持ちを込めた視線を送る。学は、「任せとけ」と言わんばかりに親指を立てた。
「水晶とか、蛍石とか、トパーズとか……」
「うわー。いいね、目の保養になりそう。草薙君が石に詳しいのも、そのお陰なのね!」
「いや、これはお祖父ちゃんの石仲間の受け売りっていうか……」
「謙遜しちゃって!」と、今度は学が僕を肘で小突く。
 でも、事実だ。雫と律さんが丁寧に教えてくれるからこそ、少しずつ鉱物のことが分かるようになった。お陰で、先日買った鉱物の本の解説も、スラスラと頭に入って来る。
「私達も、石を集めてるの。だから、色々と教えて欲しいな」
「そうそう。まだ初心者で、分からないことがたくさんあるし」
 山下さんが率いる女子達に期待の眼差しで見つめられ、くすぐったいようなむず痒(がゆ)いような気持ちになる。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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