よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「鉱物って流行ってるんだな。みんな、どんなのを持ってるの?」
 学は女子に尋ねた。
「お小遣いで買ってるから、まだそんなに集まってないけど……」
 山下さんはそう言いながら、携帯端末の中の写真を見せてくれる。
 先ほど見せてくれた八面体に成形された蛍石の他にも、澄んだ青空のような色の蛍石や、花のような桃色と、瑞々(みずみず)しい葉のような緑に彩られたトルマリンなどが写っていた。
 皆、眩(まばゆ)い灯(あか)りに照らされて、色鮮やかな影を落としている。素直に、とても綺麗だと感じた。
「へぇ……。すごく綺麗だね」
「でも、小さいのよ」
「こんなに綺麗だったら、大きさなんて関係ないよ」
 僕がそう言うと、山下さんははにかむように笑った。学も携帯端末を覗き込み、「すげー」と感嘆の声を漏らしている。
「これ、高かったんじゃないか?」
「ううん。まあ、まともに買ったら手が届かないんだけど……」
 山下さんが率いる女子達は、共有している秘密を伝えるべきか悩むように顔を見合わせる。ややあって、山下さんが教えてくれた。
「フリマアプリを使ったの。そうすると、他のコレクターが放出した石を安く買えるし」
「放出?」
 今度は、僕が尋ねる番だった。
「うん。石を手放すことを、コレクションの放出って言ってるわけ。私の石は、全部放出品ね」
「へー。それじゃあ、樹もフリマアプリを使えば?」
 学は、これだと言わんばかりに目を輝かせる。
「フリマアプリで鉱物を買うの……?」
「違う、違う。遺品整理をしてるって言ってただろ? フリマアプリで引き取り先を探すんだよ。骨董屋さんに頼むよりも楽そうだろ?」
 確かに、放出したいコレクションの写真を撮り、アップロードして登録するだけで引き取り手を探せるのならば楽かもしれない。少し怖い骨董屋さんに依頼するよりも、土蔵に居ながらにして、雫や律さんの話を聞きながら引き取り手を探した方が、精神的にも良さそうだ。
「でも……」
 すぐにフリマアプリを使おうという気にはなれなかった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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