よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 悩んでいる僕に、山下さんはフリマアプリにアップされた鉱物の数々を見せてくれた。どれも色鮮やかで透明感があり、綺麗なものだった。
 だけど、長い年月をかけて結晶となり、遠路はるばる旅して来たであろうこの鉱物達が、古着や化粧品サンプルと一緒に売られているのが、何となく物悲しく見えてしまった。
「因(ちな)みに、この子達にラベルは付いてるの?」
 心の声を押し殺しながら、素朴な疑問を投げてみる。
 すると、山下さんは聞き返すことなく、深く頷いた。
「あるよ。産地が書いてあるやつでしょ?」
「あっ、ちゃんと付いてるんだ。良かった」
 一先ずは胸を撫で下ろす。
 山下さんは、ラベルの画像も見せてくれた。ラベルの縁にはアールデコ風の装飾が描かれていて、可愛らしい文字で鉱物名と産地が書かれている。そして、その右下には、何故かサインも書かれていた。
「あれ? これは何?」
「前の持ち主のサインよ。これね、カリスマコレクターのミントさんの石なの!」
「ミントさんって?」
「この人よ、この人。フォロワーが数万人もいるSNSアカウントを持つコレクターなの! いつも綺麗な石をアップしてくれるし、しかも、それを破格の値段で放出してくれるのよ!」
 山下さん率いる女子達は盛り上がりながら、ミントさんが投稿したSNSの写真を見せてくれる。
 先ほどの彼女らの写真のように、鉱物に眩い光を当てることによって、鉱物自身の透明感と、鮮やかな色の影を演出していた。
 深い緑の、双晶になった蛍石の画像もある。エメラルドのような美しさの蛍石に、見覚えがあった。確か、ロジャリー鉱山から産出したものだっけ。
「見てよ、この『いいね』の数! 私もこんなに『いいね』される石が欲しいなぁ」
「そっか……。手に入ると、良いね……」
 山下さんの言葉を聞き、僕は何とか笑顔を作る。その横では、学が首を傾げながら彼女達を見ていた。
 果たして、彼女達が本当に欲しいものは何なんだろう。
 僕も内心では、学と同じように首を傾げていたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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