よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第四話 蛍石の愁い〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

***


 学校から帰ると、決まって土蔵へと足を運ぶようになっていた。
 僕と律(りつ)さんで頻繁に出入りしているためか、埃(ほこり)っぽさはすっかりなくなっている。ひんやりとしていた土蔵は、いつの間にかぬくもりすら感じられるようになっていた。
 そんな中、僕は裸電球の暖かい光の下で、八面体に成形されたクリームソーダのような色の蛍石と、グレープジュースを閉じ込めたような色の蛍石を机の上に並べてみた。
「うーん、光量が足りないかな」
「どうしたんだい?」
 雫(しずく)が、興味深そうに覗(のぞ)き込む。
「透明感がある鉱物に強い光を当てると、光が鉱物を通り抜けて、鉱物の色をした影が綺麗(きれい)に浮かび上がるんだ。この子達なら、きっと上手くいくと思ったんだけど」
「ああ。透明感がある石だと良いかもしれないね。金属鉱物の反射も捨て難いものだけど」
 雫は、細い指先で蛍石を撫(な)でてみせる。
「透明感があっても、僕のように無色ではいけないのかな」
「雫の本体は、光がちゃんと抜けると思うけど、影に色が付かないからね」
 裸電球に照らされている日本式双晶(そうしょう)を見つめる。標本の下に出来た薄い影よりも、僅(わず)かな光でも反射して、まばゆく煌(きら)めく姿の方が美しかった。
「僕の一族ならば、紫水晶(アメシスト)や黄水晶(シトリン)だと良いのかもしれないね。瑪瑙も、薄くスライスをしたものであれば面白い影が映るかもしれない」
「スライスかぁ。お祖父ちゃんのコレクションにもあったけど……」
 僕は、規則正しく積み上げられた木箱を見やる。確か、律さんと一緒に整理をして、一か所にまとめておいたはずだ。
「だいぶ前に整理したような……」
「地球の記憶が地層になるのと同じで、人の仕事もまた、堆積するものだからね」
 雫は暗に、積み上がった箱の下の方にあったはずだと教えてくれた。
「それに、ちょっと大きくて扱い難いっていうか……」
 祖父の持っていたスライスは、顔面くらいの大きさがあるのではないかというものだった。波紋を静止させたような模様と、そこから抜ける光は美しかったものの、僕が下手に弄(いじ)ると割ってしまいそうだった。
 箱を開けたり梱包(こんぽう)を解いたりという作業をしていた律さんも、いつになく真剣な表情で梱包していたのをハッキリと覚えている。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number