よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 祖父が遺(のこ)した土蔵は、以前と比べてすっきりした。
 大きな鉱物達があちらこちらで煌(きら)めいていて、魔法使いの住処(すみか)のようなところは相変わらずだったけれど、雑然とした感じは随分と薄れた。
 鉱物を始めとする、様々なものを収集していた祖父は、土蔵に沢山の思い出を遺していった。
 だけど、僕と祖父の石仲間だった律(りつ)さんとで大量の鉱物を整理し、然(しか)るべき人や施設に引き取って貰(もら)った結果、混沌(こんとん)としていた土蔵はかなり片付いて、何が何処(どこ)にあるのかが分かるようになった。
 それでも、細かいところに手が行き届いておらず、僕も律さんも把握していないものもあるけれど。
「ゴールは見えてきたように思えるけど、なかなか終わらないね」
 奥の方に仕舞われていた木箱の中身を検(あらた)めていた僕は、土蔵の中にいる男の子にぼやいてしまった。
「ゆっくりでいいと思うよ。鉱物は逃げたりしないからね。樹(いつき)のペースでやるといい」
 包み込むような穏やかな声が返って来る。
 裸電球の光を受けた髪をキラキラと輝かせながら、土蔵の住民にして僕の友人でもある雫(しずく)は微笑(ほほえ)んだ。
「樹にとっての一日も一年も、僕達にとってあまり変わらないからね」
「流石(さすが)は石精(いしせい)。時間のスケールが違うなぁ……」
 雫の背後では、大きな水晶が煌めいていた。雫は、その水晶に宿る石精――石と縁がある者にだけ見える精霊のような存在だ。
 水晶の原石というと、透明でオベリスクの尖塔(せんとう)のような形を連想するけれど、雫が宿る水晶はハート形だった。日本式双晶(そうしょう)と呼ばれている形で、水晶の双子だという。珍しいタイプの水晶だけど、祖父が見つけた時に、産地を記録していなかったがために、雫は何処から来たのかが分からなくなってしまった。
 その話を聞いて以来、僕は祖父のコレクションに添えられた産地ラベルを大切にしようと思ったし、自分で石を見つけた時には必ず産地を記録するようにした。
 産地情報が分からないと、コレクションの価値が損なわれると言うし、石精も不安になるだろうから。
「まあ、焦ってやっても、石を破損させちゃったり、産地ラベルをバラバラにしたりしたら大変だしね」
「そういうこと。何事も、自分のペースが一番だ。それに、樹は土蔵の整理だけではなく、勉学にも勤(いそ)しまないといけないのだろう?」
「それは、ぼちぼちって感じかな……」
 僕は雫に苦笑を返した。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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