よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 高校受験も近いので、勉強量も格段に増えた。その所為(せい)で、以前のように帰宅してから土蔵に入り浸る時間も減ってしまった。
 けれど、土蔵で煌めく石達を眺めるのは、僕にとって貴重な癒しの時間でもあった。
 こうして、雫の日本式双晶の煌めきを見ているだけで、僕は頭の中をぐるぐると巡る数学の公式や詰め込んだ歴史の出来事から逃れることが出来た。
「どうしたんだい、樹」と雫が首を傾(かし)げる。自分の本体を見つめられているのに気付いたらしい。
「ううん。石を見ていると癒されるなって思って」
「達喜(たつき)も、忙しそうな時はそんなことを言っていたね」
 雫は祖父を思い出してか、微笑ましそうに答えた。
「鉱物は綺麗(きれい)だしね。それに、変化が少ないから癒されるのかな。永遠の象徴みたいなものだし」
「ん……、そのようだね」
 永遠という言葉を聞いてか、雫は顔を曇らせた。
「まあ、石だって変化はあるんだろうけど、僕達に比べたら長生きだし」
「そうだね。大凡(おおよそ)は」
 少し引っかかる言い方だったけれど、雫は頷(うなず)いてくれた。
「石に癒されると言えば、鉱石の採掘を行っていた鉱夫達も、整った鉱物の結晶を見つけては持ち帰ったという話を聞いたことがあるね。鉱山関係者の家には、その当時に持ち帰った石があるようだ」
「鉱山で働いていた人達にとっても、綺麗な石は癒しだったんだね」
「そのようだね。僕達に触れることで、人が安らいでくれるのは嬉(うれ)しいことさ」
 雫は微笑む。僕も、つられて笑顔になった。
「鉱山関係者の家かぁ。どんな石があるんだろう。やっぱり、水晶が多いのかな」
「まあ、水晶は何処でも採れるしね。だけど、日本のかつての鉱山で働いていた人達の家は、金属鉱物も多いかもしれないね」
「金属鉱物って言うと、水晶みたいな透明な石じゃなくて――」
「基本的には金属光沢を有する石かな。透明感が無いのがほとんどでね」
 勿論(もちろん)、例外はあるけれど。雫はそう付け足した。
 祖父のコレクションの中にも、ギラギラした金属光沢がある石が幾つかあった。水晶などの透明感がある石と比べれば武骨で、癒されるというよりも頼もしさの方が強かった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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