よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 雫は、土蔵の一角から、祖父のコレクションの箱を引きずり出す。僕は思わず手伝ったけれど、動かす度に木箱が軋(きし)むほどに重かった。
「この中、何が入っているか見たっけ……」
「律君が整理してくれたようだね」
 どうやら、その重い箱の中身の整理は、律さんが引き受けてくれたらしい。そう言えば、整理をしている最中に、「これは重いから、僕がやるよ」と言ってくれていた気がする。
「金属鉱物の代表と言えば、黄鉄鉱(おうてっこう)かな」
 雫は、紙の箱の中に丁寧に収められた真鍮色(しんちゅういろ)の石を取り出す。
 それが箱の中から姿を現した瞬間、電球の光をギラリと反射させた。あまりにも眩(まぶ)しい煌めきに、僕は思わず目を細める。
 雫が手にしていたのは、キューブ型の石だ。とても美しい立方体なので、初めて目にした時は人の手で真鍮を立方体に整えたのではないかと疑ってしまった。
「いつ見ても、現代アートみたいだなぁ……」
 見る度に、自然が生み出したなんて嘘(うそ)みたいに思える。表面は磨かれたように光を反射して僕の顔を映し出すし、角は職人が手を加えたみたいにシャープだった。
「スペインのナバフンのものだね。あの地域は、とても綺麗な黄鉄鉱を産出するんだ。母岩が砂岩なのも特徴的だね」
 雫は、現代アートを支える土台と化している白い母岩を僕に見せてくれる。
「あの地域の地質年代はジュラ紀や白亜紀でね。恐竜の足跡も見つかっているそうだよ」
「それって、この黄鉄鉱も恐竜時代に作られたってこと?」
「そうだね。恐竜時代にあったものが長い年月をかけて結晶になったのさ」
 恐竜時代というと、ざっと一億年ほど前か。十数年しか生きていない僕にとって、それは途方もない年月だった。
「そんなに時間をかけて結晶になるなんて、凄(すご)いなぁ」
「ふふっ。先カンブリア紀の地層から見つかる鉱物もあることだしね。僕達にとっては、そこまで長い時を経た実感はないけれど」
 雫はさらりとそう言いながら、次から次へと鉱物が入った箱を取り出してみせる。その中から、ラベルと鉱物を出して並べてみるものの、全体的に地味で武骨な雰囲気だった。
「金属の塊って感じだね。すごいなぁ……」
 ごつごつとした灰色の鉱物を見やる。幾何学的な塊が群晶になっていて、その中には黄鉄鉱のようなキューブ型の塊もあったけれど、黄鉄鉱のようにシャープではなく、光沢も少なく重々しい雰囲気だった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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