よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「これは、方鉛鉱(ほうえんこう)だね」と雫は虚空に文字を書いてみせる。
「鉛……なの?」
「硫化鉛から成る鉱物なのさ。持ってごらん」
 ただし、気を付けてね。と忠告をしながら、雫は僕に手のひら大の方鉛鉱を手渡してくれた。
「お、重っ!」
 雫が手を離した瞬間、方鉛鉱を手にした両手にずっしりとした重みを感じる。
「見た目よりも、ずっと重いんだけど……!」
「まあ、鉛だしね。比重は七半程度。鉱物の中でも、かなり重い部類だね」
「これだけ重いってことは、黄鉄鉱よりも硬いのかな」
 僕は、母岩を持って方鉛鉱を裏返してみる。その瞬間、母岩にしがみつくようについていた方鉛鉱の欠片(かけら)が、ポロリと机の上に落ちてしまった。
「えっ!」
 大きな方鉛鉱と同じような形の欠片が、机の上で気まずそうに転がる。
 どうしよう。僕の問いかけは声にならず、ただひたすら、目線だけを雫に向けた。
 しかし、雫は咎(とが)める様子もなく、方鉛鉱の欠片を拾う。
「方鉛鉱は脆(もろ)いからね。保管した時に、欠けてしまったのかもしれないね」
「それじゃあ……」
「樹がしたことではないと思うよ。それに、よくあることだから」
 雫は、困ったように微笑んだ。
「こんなに硬そうなのに、脆いの……?」
「モース硬度は二半から三だしね。それに、劈開(へきかい)があるんだ」
「劈開って、割れやすい方向のことだよね」
「そういうこと。方鉛鉱は重いから、思わずぶつけたり落としてしまったりすることもままあるしね。そういう時に、今のように割れることがあるのさ」
「気を付けてっていうのは、そういう意味もあったんだね」
 雫の、最初の忠告を思い出しながら、僕は方鉛鉱をそっと机の上に置いた。
「あと、こういうのもあるね」
 雫が手にしたのは、親指の先ほどの小さな石だった。雫はその石を、電球の光で透かす。
「わぁ……」
 光で透かされた石は、不思議な輝きを生み出していた。翠(みどり)色とべっ甲色が入り交じった、奥行きを感じさせる色合いだった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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