よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「宝石みたいだ……。これは、金属鉱物じゃないの?」
「いいや。この子は閃亜鉛鉱(せんあえんこう)。亜鉛と硫黄から成る鉱物だね」
「亜鉛……?」
 僕は耳を疑ってしまった。まさか、亜鉛から成る石が、こんなに綺麗な色をしているなんて。
「英名はスファレライト。見ての通り、一般的に見栄えがいいとされるような石だからね。宝石としてカットされることもあるのさ」
 雫は、僕の手のひらに閃亜鉛鉱の欠片を載せてくれる。光に透かすと、味わい深い輝きが万華鏡のように瞬いて、僕は思わず夢中になってしまった。
「このままでも、すごく綺麗だね。ずっと見ていても飽きないよ、きっと」
「樹は、透明感がある石の方が好きなようだね」
 雫は僕と顔を並べると、一緒になって閃亜鉛鉱の輝きを見つめていた。
 閃亜鉛鉱を通した光が、雫の瞳を更に輝かせる。ダイヤにも負けないであろう輝きを放っている双眸(そうぼう)に、僕は思わず見とれてしまった。
「雫が、透明感がある石だから……かな?」
「へぇ、それは嬉しいね」
 雫はこちらを振り返り、にこやかに微笑む。その笑顔もまた眩しくて、僕は思わずはにかんでしまった。
「でも、光を通さない金属鉱物もいいね。渋いし、カッコいいから」
 僕は改めて、黄鉄鉱や方鉛鉱を見つめる。
「そうだね。それに、日本だと金属鉱物の方が、馴染みがあるかもしれないし」と、雫は頷いた。
「そうなの?」
「今取り出したのは海外産だけど、日本の金属鉱物も立派なものだよ。昭和の頃は、鉱山での採掘も盛んだったし、素晴らしい標本が多く産出したものさ。市之川(いちのかわ)鉱山の輝安鉱(きあんこう)なんかは、世界的にも有名だしね」
 雫は、国産の金属鉱物の標本を入れた箱を探したものの、生憎(あいにく)と、他の箱に埋もれるほど、奥に仕舞われていた。
「おっと、すぐには取り出せないね……」
 雫は、残念そうにそう言った。成人男性である律さんがいれば頼もしかったのだけど、僕と雫だけでは取り出すだけでも一苦労だろう。
「また、次の機会に見ればいいよ。石は逃げないし」
「ふふっ、そうだね」
 僕の言葉に、雫は笑ってみせる。
「それに、僕達人間みたいに、あっという間に変化するようなものじゃないから」
「うーん……」
 言い添えた言葉に、雫は言い淀(よど)んでしまう。
「石による、かな。後は、保管する環境によるね。この土蔵は、そこまで悪い環境ではないと思うけど」
「環境……か」
 何億年もかけて結晶化した鉱物が、ちょっとした環境の変化でどうにかなってしまうのだろうか。岩塩のように水や熱で溶けてしまう鉱物が頭を過(よ)ぎったけれど、雫の言葉には、それ以上の含みを感じたのであった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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