よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「硫黄って言うと、温泉があるところで見かけるよな」
 学は、思い出したように手を叩(たた)いた。
「ほら、箱根の大涌谷(おおわくだに)とか」
「ああ。確かに……」
 大涌谷は、ロープウェイで見学をしたことがある。辺りには蒸気と硫黄のにおいが立ち込め、谷はあちらこちらが硫黄の色に染まっていた。
「お祖父ちゃんのコレクションにも、硫黄の結晶が幾つかあったな……。箱に厳重な封をされてたけど」
 祖父の手記によると、全国の硫黄の結晶を集めたものだったらしい。どれも、箱にきっちり入っていたけれど、肝心な箱がボロボロだった。一緒に整理をしていた律さんはそれを見て、硫黄をジップロックに入れてから、新しい箱に入れ直したのであった。
「硫黄は化学反応を起こし易(やす)いから、保存には気を付けないといけないって律さんが言ってたんだ。お祖父ちゃんも、他の石と一緒の箱には入れてなかったね」
「あー。見るからにやばそうだもんな。においも凄いし、安定してないのかもしれないな」
 学は、うんうんと頷いた。
「大涌谷の硫黄なんかは、ガスで急速に成長したみたいだしね。イタリアのシシリー島で採れる硫黄は、じっくりと結晶化したようだから安定してるし、宝石みたいに綺麗だって言われてるんだけど」
「石の生まれや育ちによって違うのかな」
「僕と学が、同じ人類なのに違うっていうのに近いのかも」
 僕と学は、顔を見合わせる。「なるほどなー」と学は目を丸くした。
「俺は外で駆け回るのが好きだけど、家で黙々と勉強するのは苦手だしな。樹はその逆だし、そういうことか!」
「あと、学の方が環境の変化に強いしね。僕は、季節の変わり目なんかは風邪を引いちゃって」
 学が石だったら、湿気も温度差もものともしなそうだ。変化に強い水晶みたいだと思った。
 そんなことを考えていた、その時であった。
「草薙(くさなぎ)君」
 聞き慣れた声に振り向くと、そこには大人びた雰囲気の女子――山下(やました)さんがいた。よくクラスの女子の話題の中心になっている彼女は、いつもの取り巻きのメンバーとは違う女子を連れていた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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