よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「石倉(いしくら)さん、草薙君の話を聞きたいんだって」
 山下さんの隣にいた女子は、ぺこりとこちらに頭を下げる。
 石倉さんも、クラスメートだ。彼女はいつも自分の席で読書をしているので、あまり話したことがない。制服を着崩してオシャレにアレンジしてしまっている山下さんに比べて、スカートの丈すら弄(いじ)っていない石倉さんは、とても真面目な生徒に見えた。
「僕の、話……?」
「草薙君、石に詳しいでしょ? 私も石は好きだけど、草薙君ほど詳しくなくて」
 山下さんは困ったように笑う。石倉さんは、律儀に山下さんに会釈をすると、僕達の方へと踏み出した。
「あの、草薙君。いきなりごめんね。鉱石について聞きたくて」
「鉱石……」
 山下さんも、以前に鉱物を鉱石と言っていたことを思い出す。だけど、石倉さんのそれは、山下さん達とは違うニュアンスのように聞こえた。
「だめだめ。鉱石と鉱物は違うのよ。草薙君に言われたんだから」
 山下さんは、石倉さんの肩をぽんと叩く。それを聞いた石倉さんは、申し訳なさそうにうつむいた。
「あ、そうなんだ……。うちは、お祖父ちゃんが鉱石って言ってて……」
「もしかして、お祖父さんは鉱山で働いていたとか……?」
 僕の問いに、石倉さんはパッと表情を輝かせた。
「すごい。どうして分かったの?」
「鉱山で鉱石の採掘をしていた人達が、綺麗な結晶を持ち帰ったっていう話を聞いたことがあったから、その所為で鉱石って呼んでるのかと思って」
「そう。それだよ、それ!」
 石倉さんは嬉(うれ)しそうに手を叩く。山下さんは「あ、そういうコト」と、僕と石倉さんを交互に眺めた。
「実は、うちも草薙君のところと少し似ていて……」
 石倉さんは、ぽつぽつと身の上話を始める。
 彼女も祖父を亡くしており、形見分けで祖父のコレクションを譲り受けたのだという。そのコレクションというのが、鉱山から持ち帰った鉱物だそうだ。
 僕と違うのは、石倉さんの祖父は鉱山で働いていた人であり、収集家というわけではなかったということだ。なので、標本の産地を示すラベルなどは存在しなかったという。
 だが、幸い、働いてた場所が分かっていたので、産地不明になることはなかった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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