よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「鉱山で働いていたなんて、凄いよな。身体(からだ)が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)頑丈そうじゃん。それに、今、鉱山なんてほとんどないだろ? 経験者の存在自体が貴重っていうか」
 学は、石倉さんの祖父を尊敬するような眼差しを彼女に送る。
「一応、セメントを作るための鉱山はそれなりに稼働しているみたいだけどね。機械も発達しているだろうし、昭和の頃の掘り方とは違いそうだね」
 僕は、律さんが話していたことを思い出す。
 海外では、現役の銅鉱山から見事な標本が産出することもあり、鉱山で働いている人の話を聞きたがっていた。坑道の奥にどんな世界が広がっているのか、僕達ではなかなか知り得ることがないから。
「鉱山の話はお祖父ちゃんの日記に書いてあったから、興味があるなら見せようか? ただ、達筆過ぎて読めないところはあるけど」
「是非是非。雰囲気だけでも分かると嬉しいな」
 僕は思わず身を乗り出す、学も激しく頷いていた。
「でも、日記もちゃんと残されているなら、僕はあんまり力になれないかも。最近、鉱物の世界に触れ始めたばかりの僕が、鉱山で働いていた人よりも詳しいとは思えないし」
「ううん。聞いてくれるだけでいいの。それに、お祖父ちゃんとはまた違った見方も出来るかなと思って」
「そういうことなら……」と僕は頷く。
「相談ごとっていうのは、これのことなんだけど」
 石倉さんは、携帯端末に画像を表示してみせる。それを見た僕と学は、思わず「あっ」と声をあげた。
「へー。蛍石(ほたるいし)とは全然雰囲気が違うね」
 山下さんは、興味深そうに目を輝かせる。
 それもそのはずだ。石倉さんが見せてくれた写真は、正に今、僕と学の話題に上っていた金属鉱物の黄鉄鉱だったからだ。
 真鍮の輝きと、人の手で作り上げたとしか思えないほどのシャープな立方体の群晶だ。山下さんは、「これは、加工したやつ?」と石倉さんに尋ねる。
「ううん。お祖父ちゃんは何もしてないって」
「蛍石は八面体に加工したのがあるから、そういうのかと思って。天然でこんな形になるなんて、凄くない?」
 山下さんは黄鉄鉱の群晶をしげしげと眺める。その感動っぷりを見た学は、「分かるわー。俺も芸術作品だと思ったもんな」と頷いていた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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