よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「これは整ってるけど、こういうのもあって……」
 石倉さんは別の画像を見せてくれる。すると、キューブではなく矢羽根のような形の黄鉄鉱の群晶があった。
「えっ、こんな形にもなるんだ……」
 僕も思わず驚いてしまう。立方体の他に、五角十二面体や八面体の黄鉄鉱なら見たことがあるけれど、矢羽根型が存在しているなんて。
「この黄鉄鉱は、何処の鉱山で見つかったの?」
「秩父(ちちぶ)鉱山だよ」
 石倉さんの言葉に、僕を含めた三人は「へぇ」と感嘆を漏らした。
「秩父っていうと、埼玉の奥の方だよな」と学は記憶の糸を手繰り寄せる。
「長瀞(ながとろ)があるところだっけ。あの、ライン下りが出来るところ」と山下さんは、目を輝かせた。
 石倉さんは、「そう」と二人に頷く。
「お父さんの実家が秩父なんだ。お祖父ちゃんから聞いた話だけど、秩父鉱山の歴史は江戸時代からで、元々は金を採掘するために人が集まったんだって」
「なるほどね。でも、金じゃなくて……」
 僕は、黄鉄鉱の画像に視線を落とす。
 黄鉄鉱は金のように輝くけれど、愚か者が金と間違えるという意味を込めて『愚者の金』と呼ばれているのだという。確かに、黄鉄鉱のギラギラとした輝きには目がくらみそうになるので、金と間違えそうになる気持ちは分かる。
「この黄鉄鉱は金じゃないけど、ちゃんと金も出たんだって。あの辺りの川には、今でも砂金採りの人が来るしね」
 石倉さんは、祖父の日記に書かれていたことを教えてくれた。
 金は多少出るものの、金山として成り立たせるのは難しかったらしい。昭和の時代には、亜鉛や鉛、鉄などの鉱山として、昭和五十三年まで稼働していたという。秩父鉱山は、金属鉱物を中心に、様々な鉱石が産出していたので、時代に合わせた採掘が出来ていたとのことだった。
「でも、鉱山っていうと山奥だよな。麓の街から通ったわけ?」
 学は興味津々に尋ねる。
「ううん。山の中に、鉱山町があったから。鉱山で働いていた人達は、そこで生活してたんだって」
 鉱山で働く人達のために、一通りの施設が揃(そろ)った町があったのだという。そこには学校や銭湯、病院に郵便局もあり、わざわざ麓まで下りる必要がなかったそうだ。
「今は、ほとんどが廃墟になっちゃったけどね。石灰岩の採掘はやってるみたいだけど、鉱山町で大勢が生活しているっていうわけじゃないみたい」
 今は、廃墟マニアが写真を撮りに来たり、鉱物好きがズリとして捨てられた石を探しに来たりするくらいだけとのことだった。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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