よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 週末、律さんと会うことになった。
 今回はうちの土蔵に集まるのではない。新宿にある標本屋さんだ。
 律さんは、鉱物標本を入れるためのケースを購入したいのだという。その後、うちに来てくれると言ってくれたけど、僕は律さんと標本屋さんを見たかったので、無理を言って同行することにした。
 律さんと僕、そして、雫は新宿の大型書店にやって来た。
 休日なので、新宿はいつも以上に人で溢(あふ)れている。勿論、書店の中にある標本屋さんも例外ではない。
「おおー。結構人がいるなぁ」
 鉱物や化石の標本が所狭しと並べられた店内を眺めながら、律さんは感心する。
「ミネラルフェアの前だから、みんな、買い控えてるかと思ったんだけど」
「あっ、律さんが前に言ってたイベントですね」
 正式名称は、東京国際ミネラルフェア。日本で最初に、海外の業者さんを招いて開催されたミネラルイベントで、三十年くらいの歴史があるという。
「マスコットキャラが個性的でね。あれは一見の価値があると思う」
「個性的って、どんな風に?」
「それは、見てからのお楽しみかな」
 律さんはにやりと笑った。
「まあ、池袋の時とは違う海外の業者さんが来るし、そっちも要チェックだね」
「海外の業者さんって、珍しいものを持ってるイメージですけど」
「うん。まあ、産地直送みたいなのもあるしね。車をちょっと走らせたところに鉱物の産地があって、そこで掘ったっていう標本を売っているところもあるし」
「へぇ……。そうなると、結構安いんじゃないですか?」
「おっ。樹君もそういうのに気が付くようになったのか」
 律さんはにやりと笑った。
 鉱物標本に定価はない。だけど、即売会や実店舗で標本を眺めていると、おおよその相場が見えて来る。
「確かに、産地直送だと仲介業者を通していない分、安くなったりもするね。だけどまあ、業者さんの旅費もそこに乗せられていることもあるから、極端に安いってこともないかも」
「あ、そうか。海を越えて来ているわけですしね」
 遠方から来ている業者さんがほとんどだろうし、飛行機代を稼ぐだけでも大変そうだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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