よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「あと、日本で流行っている石を持っているとは限らないって感じかな。日本の流行りなら、日本の業者さんの方がピンポイントで仕入れてるかもね。日本人受けする定番の石なんかもあるし」
 双方に優劣があるわけではなく、自分に合った店を利用すればいい。律さんはそう教えてくれた。
「こちらの店は、基本的な石は揃えているようだね。時々、マニアックと言われるような子もいるけれど」
 雫は、棚に並んだ標本を微笑ましげに見つめていた。
「ミュージアムショップに卸しているようなところだしね。僕も最初の頃は随分とお世話になったし、今もこうして定期的に見に来てるんだ。偶(たま)に掘り出し物があるから、油断出来なくて」
 律さんは、うんうんと頷きながら、慣れた様子で店内へと踏み入り、迷うことなく標本ケースを幾つか手にした。
「その中に入れるんですか?」
 それは、一面がガラスになっているプラスチック製のケースだった。手のひらにすっぽりと収まる程度の大きさで、持ち運びに便利そうだ。
「そう。このケースはしっかりと密封出来るしね。標本があまり空気に触れずに済むのさ」
 律さんはそう言って、ケースを見せてくれる。ラベルを差し込むところもあり、いかにも鉱物標本を飾ってくれと言わんばかりだ。
 それよりも、僕は気になることがあった。
「標本が空気に触れないように……?」
「うん。酸化しちゃうからね。蛍石のような柔らかい石だと、酸素のほかにも塵(ちり)に気を付けなきゃいけないんだけど……」
 大気中には、石英質(せきえいしつ)の塵も含まれているという。その石英は雫の同族で、彼と同じくモース硬度が七程度だった。モース硬度がそれ以下の石は、積もった塵を手で払おうとしただけで、あっさりと傷つけられてしまうのだという。
「山下さんのコレクション、ちゃんと仕舞ってるかどうか聞いてみよう……」
 彼女は蛍石が好きだったはずだ。剥(む)き出しにしているのならば、ケースに入れるように促さなくては。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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