よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「保存方法、色々とあるんですね」
「石によって特性が違うからね。それぞれに合った保存方法を見つけてあげないと」
 そう解説する律さんの顔に、石倉さんの黄鉄鉱が重なる。
 彼女は、ケースに入れずに机の上に置いているらしい。黄鉄鉱は金属鉱物なので、変化に強そうなイメージがある。だけど、同じく金属鉱物の方鉛鉱は意外と脆いし、変化し易いと言われている硫黄を含んでいるので、心配になって来た。
「あの、黄鉄鉱についてなんですけど」
 僕は、律さんと雫に声を掛ける。
「黄鉄鉱? 初心者に是非とも紹介したい鉱物だよね。スペイン産は特に、カッコいいしさ」
 律さんは、売り場に並んでいる黄鉄鉱を目敏(めざと)く見つける。美しい立方体と、五角十二面体の黄鉄鉱が、砂岩の母岩に絶妙なバランスで乗っていた。いずれもスペイン産らしく、「スペイン産で五角十二面体は珍しいね」と律さんは感心していた。
「黄鉄鉱は結晶の形が分かり易いし、何処でも産出するから安価だしね。それに、このスペイン産の黄鉄鉱は市場に安定してあるから、鉱物初心者には水晶と併せてお勧めしたい石かな」
 水晶の名前が挙がって、雫は少し誇らしげに微笑んでいた。僕も、変化に強い水晶と同列に語られるほどならば、それほど問題が無いのではないかと胸を撫(な)で下ろす。
「スペイン産の次に多いのは、ペルー産の八面体の群晶かな。イタリアのエルバ島の五角十二面体の黄鉄鉱は有名だけど、こっちは通向けかも」
 赤鉄鉱(せきてっこう)を伴っていて、カッコいいんだけどね、と律さんは付け足す。ナポレオンが流刑にされた地というエルバ島の鉱物は、海外でも人気が高いため、日本に流れてくる数は少ないとのことだった。
「色んな形の黄鉄鉱があるんですね。十字貫入(じゅうじかんにゅう)双晶っていうのもあるんでしたっけ」
「それは、マニア垂涎(すいぜん)のやつだね。日本でも産出はあったみたいだけど、市場には流通してないだろうなぁ」
 僕も本で見たことがあるだけだし、と律さんはぼやいた。
「それじゃあ、矢羽根型は……?」
 僕は、石倉さんのお祖父さんのコレクションを思い出す。矢羽根型と聞いた律さんは、目を丸くした。
「そんな黄鉄鉱があるのかい?」
「えっ、律さんも知らないんですか?」
「黄鉄鉱の結晶図を見たことはあるけど、矢羽根型は載ってなかったなぁ……」

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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