よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈前〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 律さんは必死になって思い出そうと、頭を抱える。雫は、しばらくその様子を眺めていたが、ふと、思い出したように呟(つぶや)いた。
「秩父鉱山の黄鉄鉱かい?」
「そうそう。それ!」
「秩父鉱山? あそこで、そんな黄鉄鉱が出るんだね」
 律さんは、更に驚く。
「確か、秩父鉱山ならではの黄鉄鉱だった気がする。達喜が、コレクター仲間と話しているのを聞いたことがあってね」
 雫は、記憶の糸を手繰り寄せる。僕は、雫と律さんに、携帯端末に保存した石倉さんの黄鉄鉱を見せた。
「わ、本当だ!」
 律さんは、画面に食い入るようにしながら声をあげる。
「こんな黄鉄鉱があるんだ……。っていうか、黄鉄鉱? いや、他の鉱物に見えないから、消去法で黄鉄鉱か……」
 律さんは画面を見つめたまま、ブツブツと独り言を漏らす。
「どうしてこういう形になるんでしょうね」
「双晶……なのかな? へぇぇ、珍しい……!」
 律さんは、携帯端末から目を離そうとしない。仕方がないので、律さんに見せたまま話を進めることにした。
 僕は、その標本はクラスメートの石倉さんが、秩父鉱山で働いていたという祖父から譲り受けたものだということと、机の上に飾っているということ、最近、光沢が曇っているような気がすると言っていたことを話す。
 すると、律さんと雫は顔を見合わせた。
「その黄鉄鉱、ケースには入れてないんだよね?」
「ええ、まあ……」と律さんの問いに頷く。
「水洗いをしたことは?」
「いや。流石に躊躇(ちゅうちょ)したみたい」と雫の言葉に首を横に振る。
「そうか。黄鉄鉱は、湿気が苦手でね」
 雫がそう言うので、水溶性の岩塩を連想してしまう。
「もしかして、水洗いをすると溶けちゃうっていう……」
「流石に、溶けることはないよ。だけど、水分がついたままだと化学反応を起こしてしまうんだ」
 雫からも律さんからも、笑顔が消えていた。僕は、神妙な面持ちで耳を傾ける。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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