よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

***


 月曜日になり、僕は重い足を引きずって登校する。
 あれから、黄鉄鉱(おうてっこう)をどう保存したらいいかをずっと考えていた。
 雫(しずく)にも改めて相談したけれど、湿気が少ないところに保管することと、出来るだけ直接触れないようにすることというアドバイスを貰(もら)った。人間の指の脂が、黄鉄鉱を損ねてしまう可能性があるのだという。実際に、スペイン産の黄鉄鉱の、鏡のような表面に触れた結果、指紋が残って消えなくなってしまったという話を聞いたことがあるとのことだった。
 雫から貰ったアドバイスは、きっと石倉(いしくら)さんの役に立つだろう。黄鉄鉱は少しでも長持ちするだろう。
 だけど、黄鉄鉱がくすむのは止められない。
「困ったなぁ……」
 教室に入ると、丁度、学(まなぶ)も登校したところのようで、鞄(かばん)から教科書を取り出し、机の中に詰め込んでいる最中だった。
「よぉ、おはよう。黄鉄鉱の保存方法、分かった?」
 学は、僕を見るなり白い歯を見せて笑顔をくれる。僕は、上手(うま)く笑い返せなかった。
「聞いてみたんだけど、難しかったよ」
「へぇ?」と学は意外そうな顔をする。
「黄鉄鉱は、湿気自体が苦手みたい。ただ、それぞれ苦手の度合いに差異はあるらしいけど」
 自然の生成物である鉱物は、同一条件で出来ることはなかなか少ない。だから、産地によって差が出るし、同じ場所から産出した同名の鉱物でも、全く様子が違うものもあるとのことだった。
 律(りつ)さん曰(いわ)く、崩れ易(やす)い黄鉄鉱は、白鉄鉱(はくてっこう)という鉱物を多く含んでいるという。
 この白鉄鉱は、黄鉄鉱と同じく硫黄と鉄から成る鉱物なのだけど、低温のアルカリ性で生成された時に出来るのだという。因(ちな)みに、黄鉄鉱は高温の酸性で出来るそうだ。
 この話を学にすると、彼は更にキョトンとしていた。
「同じ成分なのに違うものが出来るなんてこと、あるんだな」
「石墨(せきぼく)とダイヤモンドなんかがそれじゃないかな。同じ炭素から成る鉱物だけど、圧力が高いとダイヤモンドに成るっていうやつ」
「聞いたことがあるような無いような」と学は頭を抱える。
「同じサツマイモでも、加熱方法次第でふかし芋にも焼き芋にもなるっていう……」
「それだ!」
 因みに、俺はふかし芋派、と学は言い添えた。意外と、甘い方が好きらしい。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number