よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「黄鉄鉱と白鉄鉱の違いは分かったけど、白鉄鉱ってどういうやつなんだ?」
「黄鉄鉱よりも繊細なイメージなんだよね。ほら」
 僕は、ネットで見つけた画像を学に見せる。
 白鉄鉱もまた真鍮(しんちゅう)色だけど、黄鉄鉱よりも白っぽい。結晶もキューブ型や五角十二面体になるわけではなく、尖(とが)った集合体が多く、樹枝状(じゅしじょう)に似たものもある。
「おっ、綺麗(きれい)じゃん。黄鉄鉱は男のロマンって感じだけど、白鉄鉱は女子っぽいよな」
 学の直感的な意見に、僕も頷(うなず)いてしまう。黄鉄鉱は武骨な鎧(よろい)を纏(まと)った騎士のようだけど、白鉄鉱は細やかなアクセサリーで身を飾ったお姫さまのようだ。
「聞いた話だと、西洋では、白鉄鉱をカットしてアクセサリーにも使ってるみたいだね。ただ、日本に持って来ると湿気で崩れちゃうみたいだけど……」
「確かに、輝きが上品だもんな。アクセサリーにしたくなる気持ちは分かるぜ。湿気で崩れちゃうっていうのも儚(はかな)くてそれっぽい雰囲気だけど、実際に崩れちゃうと困るよな」
「だよね。まさか、日本の環境自体が駄目な石があるとは思わなかったよ……」
 僕と学は、小さく溜息を吐(つ)く。
「石倉の黄鉄鉱って、白鉄鉱が混じってるわけ?」
「そうかも。黄鉄鉱と白鉄鉱って、明確に分かれてないみたいなんだ。明るめの真鍮色をしているものや、黄鉄鉱にしては繊細な形をしているのは白鉄鉱が混じってるかもって言われた」
 それは、鉱物コレクターの一人としての律さんの経験則だった。市場に流れているスペインのナバフン産の黄鉄鉱は、基本的に安定して変化が少ないようだけど、律さんのコレクションの幾つかは、崩れるまではいかないものの、表面にツブツブしたものが浮かび上がっているのだという。
 もしかしたらそれは、湿気と反応して徐々に分解していっているのかもしれないと、律さんは悩ましい顔をしていた。律さんの黄鉄鉱は、ガラスケースの中にしまってあるらしく、机の上に晒(さら)しておくよりも変化が少ないはずなのだが。
「話を聞いた後だと、そのツブツブは怖いよな。硫酸かもしれないんだよな」
「うん。だから、律さんは直接触らないでいるんだって」
 話によると、黄鉄鉱の表面が曇った時は、水を用いずに重曹(じゅうそう)で磨くという方法があるらしい。だけど、律さんはなかなかそれを実行に移せないでいるという。標本を重曹で磨くというのも大胆過ぎるし、その方法も多用出来るものではないとのことだった。
「水は駄目でも重曹はいけるんだな」
「最終手段らしいけどね」
「石倉の黄鉄鉱も、重曹でいけないかな」
「母岩がついていたから、難しいかも……」
 それに、一時は輝きを取り戻すかもしれないが、そのあとはなす術(すべ)がない。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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