よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「兎(と)に角(かく)、石倉にはしばらく黙っていようぜ。解決策が見つからないんじゃあ、どうしようもないし」
「でも、石倉さんをあんまり待たせるわけにはいかないよ」
「黙ってたら、忘れてくれるかもしれない……わけないか」
 学はガックリと項垂(うなだ)れる。
 あの黄鉄鉱は石倉さんにとって大事なものだ。忘れるはずはないだろう。
「私が、どうしたの?」
「ひえっ!」
 僕と学の悲鳴が重なる。いつの間にか、そばに石倉さんが立っていた。
 その両手には、手のひらサイズの木箱をのせている。随分と古いもののようで、あちらこちらが黒ずんでいた。
「その、実は……」
 学は、助けを求めるように僕の方を見やる。僕もまた、誰かに助けて欲しかった。
 だけど、これは正面から向き合わなくてはいけない話だ。僕は、覚悟を決めて石倉さんに話をした。
 黄鉄鉱は、比較的湿気に弱いということ。日本の環境が、湿気に弱い鉱物にとって好ましくないということ。湿気のせいで分解し、最終的には崩れ去ってしまうこと。そして、多くのコレクターがそれを止められなかったこと。
 話し始めると、石倉さんの顔は青ざめていった。しかし、話し終わる頃には、諦めたような顔つきで、手にした木箱を見つめていた。
「そっか。お祖父ちゃんの黄鉄鉱は化学反応を起こしていて、崩れそうなんだね。もし、この箱に入れていても、いずれは大きな穴を空けて崩れ去っちゃうんだ……」
「もしかして、その箱の中って……」
 石倉さんは机の上に木箱を置くと、そっと蓋を取る。するとそこには、あの矢羽根型の黄鉄鉱の群晶があるではないか。
「樹(いつき)君達に、是非見て貰いたくて。大切な宝物だけど、この石が樹君達に会いたがっているような気がしたから……」
 画像で見るのと、実物を見るのとでは違う。金属鉱物特有の、ずっしりとした存在感と、細かい矢羽根の形という相反する二つが、自然が作り出した芸術品の完成度を上げていた。
 思わず触れてしまいたくなったけれど、慌てて手を引っ込める。
「すげー。一つ一つの結晶は小さいけど、実物はやっぱり、迫力があるよな」
 学は目を輝かせる。僕も同じ気持ちだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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