よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 だけど、石倉さんはうつむいていた。
「今はまだ元気だけど、最終的には硫酸の塊になっちゃうんだよね。どれくらいで分解するんだろう」
「分からない……。やっぱり、石によって差があるみたい。長年コレクターをしている人が、久々にコレクションを眺めようとしたら――っていう実体験はあるけど」
「そっか……」
 石倉さんは黙り込んでしまう。僕と学は、石倉さんと見事な標本を目の前にして、掛ける言葉を失ってしまった。
「石って、永遠のものだと思っていたのに」
「そうだね。僕達よりも、ずっと長く存在するものだと思ってた……」
 それこそ、雫のように、祖父の若い頃から現在まで、変わらぬ姿で佇(たたず)んでいると思っていたし、僕が死んで土に還(かえ)った後も、変わらぬ姿で存在しているものだと思っていた。
 ナバフンの黄鉄鉱は、恐竜時代から長い年月をかけて形成されたという。秩父(ちちぶ)の黄鉄鉱だって、僕達にとって気が遠くなる年月をかけて今の形になったのだろう。だけど、人間の手によって採掘され、空気に触れることで、手にしたコレクターが生きている間にこの世を去ってしまうことがあるなんて。
「布で表面を磨くのは、大丈夫だと思う。でも、息を吹きかけるのはいけないみたい。人間の息には、湿気が多く含まれてるし」
 僕は、たどたどしい口調でアドバイスをする。気休めだというのは分かっていたけれど、黄鉄鉱が崩れるのをちょっとでも引き延ばしたかったから。
「あと、湿気が少ない部屋に保管した方が良いかも。ケースに入れると、少しだけ外気の影響を受け難(にく)いかもしれないね。紙は湿気を吸っちゃうから、プラスチックやガラスのケースにするとか」
「木も、あまり良くないかな」
 石倉さんは、木箱に視線を落とす。どうやら、お祖父さんもその中に保管していたらしい。
「木も湿気を吸いそうだよね……。でも、風通しが良くなるっていう話もあるけど」
「そっか。石って、意外と手間がかかるんだね」
 石倉さんは寂しそうに笑う。彼女が気にしているのは手間がかかることではないということがひしひしと伝わって来たけれど「そうだね」としか返せなかった。
「お祖父ちゃんの思い出が私に託されたように、私も子供か孫に託そうと思ってたんだ。そうしていくことで、お祖父ちゃんや石に関わった人達が永遠に生き続けるような気がして」

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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