よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 石倉さんが向かったのは、屋上だった。
 空は青く澄み渡っていて、雲一つ見当たらなかった。そのあまりにも澄んだ空を見上げていると、地上から天に昇ってしまったと言われている人達がこちらを見守っているような気がした。
 そこには、僕の祖父がいるのだろうか。そして、石倉さんのお祖父さんも。
「石倉さん……」
 屋上のフェンスに寄りかかるようにしてしゃがみ込む石倉さんに、遠慮がちに声を掛ける。石倉さんは木箱を抱えながら、「ごめんね」と答えた。
「草薙(くさなぎ)君がアドバイスしてくれたこと、ちゃんと分かったから。でも、気持ちの整理をつけたくて」
「アドバイスだなんて……」
 結局、あまり役に立てなかった。石倉さんを傷つけてしまった。
 傷つけるくらいならば、黄鉄鉱がいずれ崩れるかもしれないということを黙っていた方が良かったのだろうか。明日や明後日、数日後に崩れるというものでもないだろうし、もしかしたら、石倉さんの中で祖父への気持ちの整理がついた時にひっそりと崩れるのかもしれない。
 いいや。石倉さんは鉱物を次に引き継ぎたいと言ったじゃないか。彼女は時が経っても祖父の黄鉄鉱を見守り続けるだろうし、時間が解決してくれるということはなかっただろう。
 僕は自分にそう言い聞かせる。好きだった祖父を亡くしているという境遇が他人事ではなくて、冷静になれなかったから。
「その、全部の黄鉄鉱が崩れちゃうわけじゃないんだって。安定しているものは長持ちするし、その地質の条件によるみたい」
「でも、お祖父ちゃんの黄鉄鉱は曇って来てる。粉はまだ出ていないけど、時間の問題かも」
 石倉さんは、ぎゅっと木箱を抱き締めた。本当は、黄鉄鉱を直接抱き締めたいのかもしれない。寧(むし)ろ、祖父に抱き付きたいのかもしれない。
「石倉さんのお祖父さん、石倉さんにとって大切な人だったんだね」
 僕は、石倉さんの横に並んでしゃがみ込む。石倉さんは、こくんと頷いた。
「いつも笑顔で、すごく豪快なお祖父ちゃんだった。年を取っても鍛錬を欠かさなくて、いい身体(からだ)をしてたんだよ」
 腕なんかムキムキで、と石倉さんは軽くマッスルポーズをしてみせた。
「だけど、病気には勝てなくて。手術をするのにも、高齢だから身体に負担がかかり過ぎるって……」
「そうなんだ……。大変だったね」
 僕の言葉に、石倉さんは頷いてみせる。
「自慢の筋肉が、どんどんしぼんでいくのは、見てて悲しかった」
「身体づくりにこだわっていたのは、やっぱり鉱山で働いていたから?」
「うん。元々、身体を動かすのが好きだったみたい。秩父のお祖父ちゃんの家に行くと、偶(たま)に筋トレに付き合わされて、大変だったんだ」
 石倉さんは困ったように笑う。僕も、つられて微笑んだ。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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