よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

「ねえ、草薙君」
「うん?」
「黄鉄鉱の生成条件によって、形も変わるし寿命も変わるって面白いね」
「人間って一言で言っても、大きかったり小さかったり、僕みたいにヒョロヒョロしてたり、石倉さんのお祖父さんみたいにムキムキだったりするしね」
「ふふっ、そうだね」
 石倉さんは顔を綻ばせると、黄鉄鉱が入った木箱に視線を落とした。
「この黄鉄鉱は、どんなところにいたんだろう。秩父鉱山っていうのは分かってるし、お祖父ちゃんが遺(のこ)してくれた写真のお陰で、鉱山の様子も分かるんだけど」
 それほど広くない場所に所狭しと建てられた家屋と、鉱山関係者で賑(にぎ)わう鉱山町。武骨な機械を並べて、採掘している様子。それらは、白黒写真で石倉さんの家に遺っているのだという。
「地質がどうだったか、ってこと?」
「そうそう。色んな金属鉱物が出て来たらしいし」
「黄鉄鉱の他は、どういうのが出て来たの?」
 僕は興味があったので、思わず身を乗り出す。
「えっと、黄鉄鉱に似た色をしている黄銅鉱(おうどうこう)とか、方鉛鉱(ほうえんこう)に閃亜鉛鉱(せんあえんこう)、硫砒鉄鉱(りゅうひてっこう)なんかもあったけど」
 硫砒鉄鉱もまた、黄鉄鉱に似ている石だけど、こちらは砒素(ひそ)を含んでいる。黄鉄鉱よりも、やや赤みがかっていて、形状も異なるという金属鉱物の一種だ。
「金属鉱物のオンパレードだね……」
 僕が感心していると、「他にも」と石倉さんは続ける。
「ガーネットもあったよ」
「えっ、宝石になる鉱物だよね」
 ガーネットと言えば、あの燃えるように赤い石を思い出す。
「でも、うちにあったのは緑色だったし、綺麗だったけど、そこまでキラキラしてなかったかな」
「まあ、ガーネットも色んな色が出るし、種類も多いみたいだしね」
 ガーネットとひとくくりにされているけれど、柘榴石(ざくろいし)グループというカテゴリが存在していて、その中に様々な種類のガーネットがあるのだという。生成条件が異なると、含有する成分が異なるらしく、その成分で分別されているそうだ。
「金属鉱物にガーネットか……。そこから、秩父鉱山の地質が分かりそうなんだけどね。律さんや雫に聞いておけばよかった」
 黄鉄鉱のことばかりに気を取られてしまった。こんなことならば、秩父鉱山のことをもっと勉強しておけばよかった。
「秩父鉱山は、スカルンと呼ばれている鉱床だ」
「あっ、聞いたことがある。宝石になる鉱物よりも、鉱石になる鉱物の方が多いっていう――」
 思わず受け答えをしてしまってから、ハッとする。
 石倉さんもまた、第三者の存在に目を丸くしていた。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

Back number