よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 晴れ渡った空の下で、影が一つ落ちる。僕と石倉さんの目の前に立ちはだかるように、金色の髪の青年が佇んでいた。
 金の髪は屋上の風に揺れる。その動きは実に滑らかだったけれど、金属で出来ているかのように武骨な輝きを放っていた。
「もしかして……」
 突如として現れた青年の気配は、雫に似ている。
 今まで出会った中性的な石精(いしせい)とは異なり、騎士のように勇ましい雰囲気を醸し出していたけれど、美しく整った容姿は浮世離れしていた。
 間違いない。石精だ。
 石倉さんも、ぽかんと口を開けて石精のことを見つめている。彼女にもちゃんと、見えているらしい。
「スカルン鉱床は、石灰岩(せっかいがん)や苦灰岩(くかいがん)のような炭酸塩岩(たんさんえんがん)がマグマと接触したり、マグマに関する活動に遭遇したりした際に形成される。秩父鉱山は、典型的なスカルン鉱床のみならず、高温のスカルン鉱床なども存在し、多数のスカルンによって構成されている」
 石精は淡々と語る。
 突然のことに呆気(あっけ)に取られていた石倉さんは、「どちら様ですか……」と辛(かろ)うじて出るかすれた声で尋ねた。
「君の祖父より、想いを託された者だ」
 石精の整った唇がそう言った瞬間、辺りの風景は一変した。

 薄暗い横穴の中に、僕達はいた。パイプが張り巡らされており、開けた空間には吊(つ)り下げられたカゴが見える。
「もしかして、坑道……?」
 僕が呟(つぶや)くと、「そんな、まさか」と石倉さんは声を裏返す。不安げに木箱を抱き締める彼女を、「大丈夫。これは幻想だから」と宥(なだ)めた。
 恐らく、カゴは滑車で吊られているのだろう。仕切りはチェーンだけという心許(こころもと)ないものだけど、採掘した石を載せるためのものなのだろうか。
「幻想って……。でも、石の感触が……」
 石倉さんは片手に木箱を抱え、もう片方の手で壁面のごつごつとした岩肌に触れる。僕もつられて触れるけど、ひんやりとした岩肌の感触と地下水で濡れた泥のぬめりがやけに現実的で、坑道の中に瞬間移動してしまったのかと思ったほどだ。
 その途端、吊り下げられた電球に、一斉に光が灯(とも)る。心許ない視界が一気に明るくなり、それと同時に、眩(まばゆ)い煌(きら)めきが双眸(そうぼう)を刺激した。
「わぁ……」
 僕と石倉さんは思わず声を漏らす。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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