よみもの・連載

水晶庭園の少年たち

第七話 黄鉄鉱の輝き〈後〉

蒼月海里Kairi Aotsuki

 辺りの岩肌は、金色に輝いていた。あちらこちらで電球の光を反射して、地下だというのに眩(まぶ)しいくらいだった。
「もしかして、金……?」
 石倉さんはそう呟くものの、直(す)ぐに首を横に振った。
「ううん。黄鉄鉱だね……!」
「うん、きっとそうだ」
 僕も頷く。金にしては白っぽい輝きで、真鍮色に近かったからだ。それに、結晶を一つ一つ眺めると、硬く金属質な雰囲気を醸し出している。金のような軟らかさは感じなかった。
「やっぱり、綺麗だなぁ……。金の方が、価値が高いのかもしれないけど、私は黄鉄鉱の方が好き。結晶の形が綺麗で、クールだしね」
 キューブ状の黄鉄鉱の群晶を眺め、石倉さんはうっとりする。角は随分と丸くなっていたけれど、五角十二面体の群晶もあった。
 石倉さんの意見に同意するように、僕も黄鉄鉱の結晶をつぶさに見つめる。
 光を受けて煌々(こうこう)と輝く黄鉄鉱達だったが、その陰に輝きの鈍い石や、形が整っていない石があった。
「あっ、これも黄鉄鉱か……」
 形が整い、輝いている結晶と比べて随分とみすぼらしい姿だ。ほとんど錆(さ)びてしまっているものや、崩れかけたものもある。
「この辺は、酸化しちゃったり分解しちゃったりしてるのかな。可哀想(かわいそう)……」
 石倉さんは、哀れむように見つめる。その眼差しは、まるで身内に向けるように親しみが込められていた。そして、自分の黄鉄鉱もいずれそうなるのかという懸念が含まれているかのようだった。
「全ての石は、外気に触れた時点で酸化が始まる」
 いつの間にか、黄鉄鉱の石精が僕達の背後に立っていた。
 あまり感情を表に出さない、素っ気ないくらいの表情だったけれど、石倉さんに向けた金の瞳に慈(いつく)しみが込められているようにも見えた。
「我々も、マグマやそれに伴う熱水などに接触することで、化学反応によって生まれた存在だ。何かに接している限り、反応は進んでいる。一度出来た鉱物が、別の作用によって二次鉱物になることだってある」
 秩父鉱山では、美しくて青い鉱物である、藍銅鉱(らんどうこう)が見つかることがある。それは、銅が炭酸塩によって変化したものだった。
「石は、永遠の象徴みたいなものなのに?」
 石倉さんは、木箱を抱き締めながら問う。「永遠はない」と石精は断言した。

プロフィール

蒼月海里(あおつき・かいり) 1983年宮城県生まれ。日本大学理工学部卒業。
2014年、文庫書き下ろしの『幽落町おばけ駄菓子屋』でデビュー。同シリーズのほか「華舞鬼町おばけ写真館」「幻想古書店で珈琲を」シリーズなどを次々と刊行。他の著書に『水上博物館アケローンの夜』など。

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